ある日突然、彼氏が女装を始めた...交際中の私が周りに言われた“好き勝手な本音”
そんな怖いもの知らずのお出かけにも弱点があった。トイレだ。移動前には"誰でもトイレ"のある駅をチェックする。男女別になっているお店もダメなんだそう。 言われてみればそうだ。昨今、女装した男性が女湯に侵入したという事件や、性自認が異なる人のトイレ問題が報道されているが、当事者になるまでピンと来なかった。私もトイレにいきなり女装男子が入ってきたら動揺するだろう。 もしMtF(Male to Female)の人なら、こちらの動揺ぶりに傷ついてしまうだろうし、本当に変質者だったら危険だ。見た目ではわからない。 デリケートなテーマだ。のちにうさぎ君はフレアパンツという武器で「この人どっちだろう」というファッションをあみ出し、解決した。 男性だったパートナーの、見かけの性別が変わるストレスと戸惑いは案外大きい。わかっていてもギャップが大きすぎるのだ。彼の意思を尊重しなければと思うほどプレッシャーになる。 女友達にグチると決まって「案外リサって保守的なんだね。私は気にならないけどなあ」(←絶対自分なら気にするくせに)、「いっそ女子コーデでペアルックとか楽しんだら?」(←自分だってその歳でやらないだろう)とか、「ゲイの友達もいるから慣れてるしー」とか、「2丁目のバーに行ったりするから平気。抵抗ないし」とか。 「所詮、女の子にはなれないから、徐々にいきづまってヒステリーになるらしいよ」など、独断的な知見と親切なアドバイスをくれる友達も。そのうちうさぎ君も性転換するかもだの、胸にシリコン入れるかもだの、男の恋人つくるかもだの、まあ皆さん好きなことを言う言う。 極めつきの質問は「あっちのほうは? してる?」 ...出た。これ必ず聞かれる。素朴な疑問だと思う。でも余計なお世話だよー。
多様性の世の中と叫ばれているけれど...
彼のファッションよりも、リベラルであるはずの人たちから透けて見える本音に驚かされたりもした。当初は私も頭に来ていたが、よく考えるとアップデートできていないのは皆同じなのかも。 そもそもこの世界は複雑だ。LGBTQは色々なカテゴリーに分かれている。うさぎ君は女性らしいファッションと世界観を楽しんでジェンダーから自由になりたいQだ。もちろんQだって様々なバリエーションがある。 その中でもファッションの完成度を楽しむ「男の娘」というフィールドらしい。彼の場合、性的にはいちおう男子。そのほかは基本、女子。うさぎ君が嫌いなのは昔ながらのジェンダーに囚われている人(特に男性に多いらしい)。 で、「いちおう男子・基本女子」のパートナーである私は...やっぱり疲れる。 Qに限らず、あらゆる性自認&スタイルにみんなが「そうなんだ」って肯定できたら、この概念自体いらない気がする。多様性の世の中と叫ばれているけれど、でも今の日本はそうじゃない。かくして私とうさぎ君の微熱を帯びた日常は続く...。
石野リサ(皮膚科医)