歌広場淳が考えるオフラインイベントの魅力 格ゲーの“裾野拡大”に「貢献できるのは光栄」
大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「歌広場淳のフルコンボでGO!!!」。今回は、1月12日に自身が主催した『ストリートファイター6(以下、スト6)』のイベント『歌広場淳とミートたけしの「対戦よろしくお願いします!」#2』の模様を振り返る。 【写真】ゴールデンボンバー・歌広場淳の別カット 格闘ゲーマー「ミートたけし」としても知られる、作曲家・ベーシストの川村竜と共同で開催する本イベントは、今回で第2回目。初回時と比較して感じた変化や、格闘ゲーム未経験者が大半を占める本イベントならではの印象的だったできごとなどを、存分に語ってもらった。 ■以前にも増して「勝ちたい気持ち」を滲ませる参加者たち 『歌広場淳とミートたけしの「対戦よろしくお願いします!」』は、僕と同じくゲーマーであり、同じく(?)ベーシストでもある、ミートたけしさんといっしょに開いているイベントで、内容としては、『スト6』を通じたファンの方々との対戦会&交流会です。 今回、会場を見渡してみて、「僕はいま、とんでもない光景を見ているな」とあらためて感じました。 イベントに参加してくださる方は、主催者である僕やミートさんのファンの方々が中心で、格闘ゲームをこれまで遊んだことのない女性がほとんどなんです。一般的なゲームの対戦会というと、男性の参加者が圧倒的多数を占めるパターンが多いと思いますが、こちらでは会場の9割が女性で、しかも、そこかしこで対戦が行われているという画のインパクトは凄まじかったですね。 初回と同じく、今回(第2回)も、格闘ゲーム経験者・未経験者部門にわかれてトーナメントを実施しました。『スト6』には、オフライン対戦時限定で使用できる「ダイナミック」という操作タイプが搭載されています。このモードを使うと、攻撃ボタンを押すだけでキャラクターが適切なアクションやコンボを繰り出してくれるから、未経験者でも手軽に対戦が楽しめるんです。 この「ダイナミック」モードを使用した未経験者部門トーナメントは、毎回すごく盛り上がるんですが……初回から第2回目にかけての変化として、より「勝ちたい気持ち」が透けて見えてくる方が多かったことが印象的でした。 もちろん、優勝賞品として用意していた僕の私物が欲しいという気持ちもあったかもしれません(笑)。けれど、なによりも純粋に「眼の前の勝負に勝ちたい!」との思いで、対戦に臨んでいる方が増えていた気がしたんですよね。その証拠に、トーナメントが終わった後の野試合(フリー対戦)も初回に比べて盛んに行われていましたから。対戦を楽しむ気持ち、勝ちたい気持ちが、着々と芽生えているんだなと感じました。 ファンの方との対戦交流会+初心者講習会という趣旨で開催していますし、『スト6』をまだ知らない人に向けて広めていきたい気持ちもあるので、未経験者はウェルカムです。「前回も参加していて、それ以来ぶりに今回『スト6』をやります」という方も結構いました。 それってつまり、またミートさんや僕に会いたいって気持ちや、イベント自体が楽しかったって気持ちもあると思うんですけど、それ以上に僕がうれしく思ったのは「ゲームが嫌いじゃなかったんだな」ってこと。ゲームが嫌だったらまず来ないわけなので、ゲームの持つ「魅力」を少なからず肯定されたように感じたんです。 これは僕の持論ですが、ゲームないしeスポーツの魅力とは「ゲーム単体の面白さ」と、「それを取り巻く環境・文化・人の面白さ」だと捉えています。eスポーツにおいて、そうした魅力を伝えていく場所の頂点が「プロゲーマーたちの競技シーン」だとすれば、その裾野にあたるのは僕らのイベントのような場所なんじゃないかなと。 そう考えると、今回会場に足を運んでくださったみなさんは、もうすでにeスポーツの入口に立っていると言えるわけで。そこにすごく感動しちゃいましたね。 とくに格闘ゲームは、女性どうしで「一緒に遊ぼうよ!」ってことが起きにくいジャンルだったと思います。ですが、前回の参加者の中には「悔しい!」「勝ちたい」「淳くんがやっていることをもっと詳しくなりたい」と思った子たちが一定数いてくれて、その子たちで夜な夜な集まって切磋琢磨していた……なんてこともあったみたいで。 今回の経験者部門トーナメントでは、そうした自然発生的なミニ対戦会で普段から高め合っているふたりが勝ち上がって、最後に決勝で戦うことになったんですよ。そうやって頑張っている子たちにスポットが当たる機会ってなかなかないことだと思います。そんなふたりが僕らの目の前で、しかも僕からすれば僕のことを応援してくれている、知っている子どうしの戦いだったわけなので、ジーンときました。 それとすごく面白かったのが、前回のトーナメントで優勝者だった子が、今回は惜しくも2回戦で負けちゃったんですね。でもその子が、試合後に「いやでもお相手のほうが、ボタンの押しかたが元気よかったから、負けそうな気はした」と苦笑交じりに話していて。なんか、いいなって(笑)。 「悔しいけど、相手のほうが元気よくボタンを押してたから負けちゃったな」って大会があってもいいと思うんですよね。「プレイヤーのやり込み」未満の部分で、カジュアルに勝った負けたを楽しめる大会が。今回の未経験者部門も今日初めて触るという子が優勝していましたし、そういう意味でも「ダイナミック」モードって素晴らしい機能だなと再認識しました。 まだまだ「ダイナミック」モードを活かしたイベントって珍しいと思いますし、たくさんの可能性を秘めていると思います。ミートさんとも「お互いのマネージャーを戦わせたらおもしろいんじゃないか」とか、「今度はミートさんの愛犬まで参戦できちゃうんじゃないか」と冗談混じりで話していました(笑)。さすがに犬では勝負にならないと思うんですが、そうやって本来あり得なかったはずのコミュニケーションが生まれるかもしれないよね、って。 これは格闘ゲームに限らず、「初心者ならまだしも、まったくの未経験者だと楽しみづらいよね」ということって世の中にたくさんあると思います。たとえば「みんなでクラブに行こうよ」って誘われたとしても「私はクラブとか行ったことないし、どうせ踊れないから」って断っちゃうとか。 それが『スト6』の場合は「ダイナミック」モードがあるおかげで、仮に僕らのイベントで「対戦しようよ」ってお誘いをかけて「私ゲームやったことないので」と返されたとしても、「むしろ未経験がイチバンいいんだから! ほら、元気よくボタンを押せばいいんだよ」なんて言えちゃうところはおもしろいですよね。 ■僕らだからこそできる、いままでになかったイベントを届けたい とにかく気軽に参加してもらえたらという趣旨のイベントなので、トーナメントへの参加はあくまで希望者のみ。トーナメント参加者は入場時の整理番号で管理しているから、いきなり呼び出されて「君はトーナメント出ないの?」なんてこちらから圧をかけることもありません(笑)。次回の参加を考えている方も、そこは安心してもらえたらなと。 それはそれとしてこのイベントが、大会に参加するというプライスレスな経験をするためのきっかけにはなるかもしれないですよね。格闘ゲーム歴は5年あるけど、オフライン大会の参戦経験が1回もない人って多いと思うんです。 その点、ミートさんや僕のファンでこのイベントに参加してくれた方は、格闘ゲームの経験がほとんどないのに、オフライン大会経験はあるという稀有な経歴を持つことになります。当たり前ですけど、大会特有の興奮や緊張感って、実際に大会に出てみないと体験できないものですからね。 それこそ、僕は2023年末に『FAVCUP(ファブ カップ)』という大会に出演させてもらって、互いのプライドを懸けた真剣勝負をさせてもらったのですが、僕らのイベントに参加してくれた方たちだったら、ああいった『FAVCUP』のような大会特有の雰囲気も「ああ、私も気持ちがわかるなぁ」という目線で見てもらえたんじゃないかなと。 あと、僕らのイベントに参加してくれた方には、「ゲームイベント」に対するひとつの基準が生まれたんじゃないかなとも思います。もしも次になにか別のイベントを目にしたときには、「こんなに男性プレイヤーが多いんだ」とか、「格闘ゲームと言っても『スト6』以外にもいろいろあるんだ」とか、「プロの対戦を間近で見るとこんなにも盛り上がるんだ」といった、新たな発見がたくさんあるはずです。 そんな風に、僕らのイベントをとおして、いままでになかったような体験・経験をお届けできているんじゃないかなと、うれしく思っている部分もあります。 『スト6』を手掛けたカプコンの社員さんも、SNSでイベントの模様をチェックしてくださっていたみたいで、「人数とか規模感とか、すごいですね」とありがたい言葉をいただきました(笑)。僕は「規模だけで言ったら小ぢんまりしたイベントではありますが……」と返したんですが、カプコンさん的には、「本来リーチするのが難しい女性層をあれだけ取り込めたのはすごい」というお話で。 先日、『スト6』が早くも全世界で販売本数300万本を突破したというニュースは僕も目にしましたが、やっぱりメインの購買層は20~40代の男性ゲーマーなんだそうです。つまり10代のゲーマーや、女性ゲーマーに対して『スト6』をアピールする機会は意図して設けないと生まれないし、意図して設けようと思ってもなかなか実現が難しいらしくて。 つまり、『スト6』を扱うイベントでいきなり50名以上の女性を集めて、そこで実際に対戦をし、あまつさえ「勝ちたい」って思うようなところまでのめり込んでもらえることって前代未聞レベルなんだと。そうやって『スト6』の裾野拡大に貢献していけるのは僕らとしても光栄なことですし、ミートさんとも「第3回、4回と続けてやっていきたいね!」と話をしています。 ■きっかけは鬼龍院翔の言葉、ゴールデンボンバーでのライブ経験をベースに そもそも、僕がオフラインイベントを開こうと思った最初のきっかけとなったのは、ゴールデンボンバーのボーカル・鬼龍院翔の言葉でした。僕が活動自粛から復帰させていただいて、ライブやツアーにも出るようになり、4人でテレビに出演する機会もようやく出てきたというタイミングで、「なにかやったらいいのに」ってポロッと言われたんですよね。 ほかの誰でもない僕に対してそう言ったってことは、「そろそろファンのみなさんの前に積極的に出ていく方法を考えなよ」というメッセージだと思いました。そこから自分にできることはなにかと考えていった結果、やっぱり最初は、これまでの自分がやってきたことのなかからできることを探すべきだと思い、格闘ゲームに紐づいたイベントを開くことにしたんです。 ちょうどそのころ、ツアー中のホテルで『スト6』を使用した『CRカップ』という大会をリアルタイムで観戦していて。この大会を機に初めて『スト6』に触れた方が、練習を経て段々と上手くなっていって本番で活躍するという、「過程」の部分にフォーカスすることの素晴らしさをあらためて感じたこともあり、こういった「過程」に重きを置いたイベントをオフラインでやりたいと思ったことが出発点となりました。 『歌広場淳とミートたけしの「対戦よろしくお願いします!」』を企画するうえで、ベースにあったのは、やはりゴールデンボンバーでのライブの経験です。近年はクリスマスの時期に、ファンクラブの方に向けたライブをすることがあるんですけど、昨年は会場が群馬だったから、群馬名物の焼きまんじゅうを販売するキッチンカーを出してみようということになったんですね。 そこで、「ただキッチンカーを出すだけじゃつまらないから、歌広場が売り子をやるのはどうか」って話になって。これってつまり、わざわざライブに足を運んでくださった方に対して、せっかくだからライブ以外にもなにか特別な楽しみをお届けしたいって思いが根底にあるから、みんなで考えたりするわけなんです。 それと同じで、オフラインイベントを開催するのであれば、せっかくなら来てくれた人全員にプレイしてもらって格闘ゲームの楽しさを感じてもらいたいな……と考えていた僕らにとって、「ダイナミック」モードはまさに救世主でした。『スト6』が発売して間もないころに、僕の家に遊びに来た友だちと一度「ダイナミック」モードで対戦したことがあって、そのときからおもしろさは感じていたのもあり。 実際にイベントで「ダイナミック」モードを使ってトーナメントを開いてみると、これが僕の想像以上に盛り上がることがわかりました。格闘ゲームのセオリーがまったくわからない未経験者でも、「そんなコンボ判断、プロでもできないよ!」ってくらいのスーパープレイが飛び出したりしますからね(笑)。 ■バンギャルちゃんは格闘ゲーマーの素質アリ!? 冒頭に「第2回では勝ちたい気持ちが見える子がより増えた」というお話をしましたけど、僕に対戦を挑んでくる子たちからは、「昇龍拳を出せなかった」とか、「あの場面でインパクトを返したかった」といった言葉が出ていたことも印象的でしたね。 「イベントに来たからには、自分の推しと対戦してみたい!」という気持ちはもちろんわかりますし、対戦となれば当然僕のほうが腕前は上なので、彼女たちも負け惜しみで言っているわけじゃなくて。シンプルに、練習してきた成果が上手く発揮できなかったという、「本当はもっと上手くできるのに」という気持ちの表れだったんだと思うんですね。 そういった負けん気の強さみたいなところが、じつにバンギャルさんらしいなと思いました(笑)。それってまさに、ライブに向けて何曲ぶんも振り付けを覚えてきたのに、フタを開けてみたら覚えてきた曲がセットリストに入ってなくて、「やらんのかい!」みたいな気持ちになるのと似たようなことじゃないですか。そうやって努力したからこその悔しさをあらわにしている姿を見て、絶対にこの子たちは格闘ゲームも上手くなるだろうなと思いました。 今回のイベントのためだけに、わざわざ九州から来てくれたという方もいたりして、本当にビックリしました。そんなわけで、最初はお話ししたり記念写真を撮ったりすることがメインだったのですが、後半になるにつれてファンサそっちのけで「対戦しましょう」みたいな雰囲気に変わっていったことも印象深かったですね。 あと、イベント運営に協力してくださったスタッフの方々から、「歌ガール(ゲーム関連のイベント時に用いられるファンの呼称)さんたちはイベント進行に協力的ですごく助かります」と言ってもらえたんですよ。「トーナメントの際の対戦者の呼び出しにもすぐに応じてくれるし、勝利報告もスタッフ側から聞くまでもなく言いに来てくれるし、使ったコントローラーも元の位置に戻してくれるし」って。 思えばゴールデンボンバーのファンの方って、音楽イベントの関係者の方々からも一目置かれているというか。褒めていただけることが多いんですね。マナーがいいし、譲り合いの精神があるし、周囲も巻き込んで盛り上げてくださるし、と。今回のイベントも、参加者のみなさんの協力のおかげで素晴らしいものになりましたし、感謝の気持ちでいっぱいです。 第1回、第2回とも、おかげさまで参加してくださった方からはポジティブな感想が多く集まったので、今後もいい部分は残していきつつ、第3回ではなにかしら別の要素としてゲストの方を呼べたらいいなとも考えています。たとえば有名プレイヤーの方であるとか、ミートさんのお友達つながりで、『スト6』にゆかりのある方をお呼びできないかとか。 あと、これはお節介かもしれないですけれど、参加者どうしでお互いにもっとコミュニケーションを取ってもらえるように、たとえばランダム2on2形式のチーム戦をやってみるのもおもしろそうですよね。出場希望者を募って。 それに『スト6』には「ダイナミック」モードのほかにも、初心者どうしで楽しめる「エクストリームバトル」という対戦形式が用意されているんです。「4回ダウンを奪え」、「投げを1回決めろ」などのお題をこなすルールであったり、画面外から闘牛が突っ込んでくるギミックが発動したりと、パーティゲーム的な感覚で対戦できるので、これも使ってみたいなと。 そうやってときには変化球も織り交ぜつつ、プロゲーマーという立場ではない僕たちだからこそできることを、積極的にやっていきたいと思っています。 『歌広場淳とミートたけしの「対戦よろしくお願いします!」』は、会場のどこを切り取っても必ずアーケードコントローラーをガチャガチャやっている笑顔の女の子がいるという業界騒然のイベントなので(笑)、ぜひ多くの人にこの素晴らしい光景を伝えていきたいですし、さらに多くの人が集まるイベントにしていけるよう、今後も試行錯誤していきたいですね!
取材=片村光博/構成=山本雄太郎