虐待児の「一時保護」に司法関与の方針 現場の児相の声は?
児相「過去の実例をもとに明確化して」
相模原市の問題に絡み「短期的な対策」(厚労省)として、一時保護に関する新たな基準が数か月内には公表される予定だが、児相の現場は果たして何を求めているのか。 「一時保護の判断でやはり一番悩むのは子どもの主張と親の主張が対立した場合です」と話すのは横浜市中央児相。「親と子を一時的にであれ、無理やり引き離すのを避けたい思いは、全国どこの児相の担当者も同じはずです。命の危機があるような緊急性の高いケースは別にして、『虐待ではなく、しつけの一環だ』として親が一時保護に強く反対する中でも保護すべきという場合を過去の実例をもとに明確化していただければ」と訴える。 横浜市の場合は「子どもの安全を最優先に」との方針のもと、15年度の虐待相談件数3892件のうち一時保護は1181件と3割以上に達する。 14年度の相談件数8216に対し、一時保護は1915件の東京都児童相談センターも「保護の際に躊躇はないものの、具体的に事例が示されればありがたい」と言い、千葉市児相は「厚労省のマニュアルでは、当事者が保護を求めているケースについて『緊急一時保護を検討』としていますが、さらに細かく具体的に例示してくれれば」と話した。同市児相の14年度の相談件数は786件で、このうち一時保護は68件。「毎年度とも一時保護の割合は約1割」と言う。
家裁関与で一時保護の迅速化に懸念も
「児童虐待の対応における司法関与の在り方、例えば裁判所命令などについて7月に検討会を設置して議論を開始したい」。6月28日の閣議後会見で、塩崎泰久厚労相はこう述べ、児童虐待を受けた子どもの一時保護の判断に家庭裁判所を関与させる方針を打ち出した。 厚労省によると、この方針は相模原市の問題対応とは別物で、「一時保護のシステム強化に関する中長期的な取り組みの一つ」という。厚労相発言のもとになっているのは、5月に成立した改正児童福祉法のたたき台となった「新たな子ども家庭福祉のあり方に関する専門委員会報告(提言)」だ。専門委報告は一時保護への司法関与についてこう記している。 「(児童相談所は職権で一時保護できるものの)一連の行政処分は親権者の権利を制限すると同時に、家族と生活したり地域と交流したりする子どもの権利を制限する行為でもある。(中略)こうした権利の制限は重大な権利侵害に当たり、強制性を含むものである以上、権利制限の判断を行政判断のみですることは本来望ましいことではない」 さらに「児相による行政処分として従来行われてきた親権者や子どもの権利の制限行為は、結果として、児相と保護者・親権者の対立構造を生み出し、その後の安全な家庭への復帰を目標とした支援が進まない事例が多く経験されてきた」と指摘した上で、「司法が一連の親権制限(子どもの権利制限を含む)に対して適切に判断するなど、司法の関与を強化する必要があり、これが適切に行われるためには子ども家庭福祉に関わる者の専門性を高める必要性がある」と結論付けている。 一時保護の判断をめぐる家裁の関与という厚労省の方針について、児相側はどう受け止めているのか。 東京都児相センターは「子どもを確実に危険な状態から保護できるか、という点が担保できれば、家裁という第三者が関与し判断することは妥当なこと」と話す。 横浜市中央児相の担当者は言う。「一時保護の際に大半の親から『児相が何の権利があって』と言われます。そこに司法判断が入ることによって親側の受け止め方も変わってくるのではないでしょうか。私たち行政の本来業務は、初期対応として子どもの安全を確保したうえで、親と子供を『再統合』させて継続支援していくことだと考えています」。だた、家裁の関与によって一時保護の迅速化に支障が出ることを懸念し、「事例によっては先に仮処分のような形で子どもを一時保護して守った上で、司法判断という形でもいいのでは」と話した。