『こち亀』は香取慎吾『ジョー』は山下智久じゃない? 実は70年代にもあった漫画原作映画たち
■演技のなかに確かに光るキャラクターたちの強烈な個性…『あしたのジョー』
1967年から『週刊少年マガジン』(講談社)で連載された『あしたのジョー』は、原作担当の高森朝雄(梶原一騎)さんと作画担当のちばてつやさんのタッグが贈る大人気ボクシング漫画だ。 流れ者の少年・矢吹丈が“ボクシング”を通じて成長し、ライバル・力石徹との死闘を繰り広げる名作漫画で、のちに生まれる数々のボクシング漫画に多大な影響を与えた。 凄まじい人気から幾度となくアニメ化されてきた本作だが、2011年にはアイドルグループ「NEWS」のメンバー(当時)として活動していた山下智久さんを主演に据えた実写版映画が公開された。 山下さん、そして力石役を務める伊勢谷友介さんの壮絶な役作りも話題を呼んだ本作だが、こちらも実写版としては2作目にあたる。1作目は、原作漫画の連載開始から3年後の1970年に公開されていた。 この初代映画版だが、もともと同年に舞台版の『あしたのジョー』が公演されたことを受け、同じキャストがそのまま実写版映画に出演。主人公の丈を俳優の石橋正次さん、そしてライバルである力石役を亀石征一郎さんがそれぞれ演じている。 映画版では丈とコーチ・丹下段平との出会い、ライバル・力石との激闘、そして力石の死までのストーリーが描かれている。 漫画版と比べキャラクターのビジュアルはかなり現実的なものに差し替えられているが、一部のシーンをアニメで表現するなど、当時としてはなかなか斬新な表現技法が用いられていた。 丈の野性味あふれる雰囲気や力石の目力など、原作のキャラクターの持ち味を生かした俳優たちの演技は必見だ。
■観ること自体が困難なまさに幻の一作…『銭ゲバ』
1970年から『週刊少年サンデー』(小学館)で連載されたジョージ秋山さんの『銭ゲバ』は、貧しい過去を持ち“金”に執着する主人公・蒲郡風太郎が送る奇妙な半生を描いた作品だ。 極貧のなかで幼少期を過ごし、不幸によって心の支えであった母すら失った風太郎が、あらゆる手段を使って“金”を手に入れ成り上がっていく、なんとも強烈なテイストの一作となっている。 本作は、2009年に舞台を現代に移した実写版ドラマが放映され、成り上がりのためには殺人すらもいとわない強烈な主人公・風太郎を俳優の松山ケンイチさんが演じ、話題を呼んだ。 重く、シリアスな内容から強烈なインパクトを放つ本作だが、なんと原作漫画が連載された同年にいきなり実写映画化がされていた。 この時、風太郎を演じたのは、当時、劇作家や演出家としても活動していた俳優の唐十郎さんだ。唐さんは主演を務めたのみでなく、主題歌である「銭ゲバ大行進」や挿入歌「銭ズラよ!」などの主題歌歌唱も担当しており、実にマルチな形で実写映画版に登場している。 映画版では登場人物の名前が一部変わっていたりするものの、おおよそは原作の漫画に沿ったエピソードが展開されていく。かなり古めの実写作品でありながら、“金”のためならばなんでもする風太郎の凶暴さや壮絶な展開はバッチリ再現されており、原作同様の重苦しい展開の数々が観る者を唖然とさせる。 本作は1970年に放映されて以来、いっさいビデオソフト化などされておらず、今となっては観ること自体がかなり難しい“幻の作品”としても語り継がれている。原作の強烈なテイストやテーマ性を見事に再現した、伝説の実写化作品といえるかもしれない。 今回紹介した実写化作品は原作漫画の連載直後に公開されたものも多く、原作ファンでもその存在を知り得なかったような作品も多いかもしれない。連載初期だからこその演出や変更点も見受けられるのは、当時の時代を感じる面白い点といえるだろう。
創也慎介