パラ五輪日本代表女性アスリートに賠償命令 「投稿者に厳しく慰謝料も相場より高額」判決のポイント解説
●裁判所の指摘…ルール違反指摘にあたり「匿名の中傷を選択した」
――慰謝料額について、裁判所はどのような点を考慮しましたか 裁判所は以下の事情を慰謝料額算定事情として考慮しました。 (1) 重定さんは、競技ルールに疑義があれば、競技団体等に指摘することができたのに、敢えて、匿名で、小野寺さんのブログに中傷コメントを投稿するという方法を選んだこと (2) 投稿された記事の中に、虚偽の事実摘示や、強い表現を使った小野寺さんへの非難、挑発的あるいは嘲笑的言及が含まれること (3) 「記事を投稿したのが自分のライバルであった」と知ったことによる、小野寺さんの精神的苦痛が大きいこと。 ――民事だけでなく、小野寺さんは2022年7月29日、名誉毀損罪で刑事告訴しました。東京地検は同年12月19日、不起訴(起訴猶予)処分としています。評価をお願いします。 ネットの書き込みによる名誉毀損については、略式命令で罰金刑となることが多いです。本件が不起訴で終わった理由はわかりませんが、記事内容に照らして、小野寺さんの社会的評価を低下させる度合いが低いと評価された可能性があります。
●匿名ではなく実名であれば慰謝料は減額された可能性がある
――重定さんも反訴して、棄却されています。重定さん側の請求はどんなものでしたか 重定さんは「小野寺さんが、プロバイダから開示された重定さんに関する情報を、重定さんの所属する競技団体や勤務先などに電子メールなどで知らせたことが、自身の名誉権またはプライバシーを侵害する」と主張して、小野寺さんに賠償金の支払いを求めました。 これに対し、裁判所は、主として、伝播可能性が乏しいこと(=知らせた内容が拡散される恐れが小さいこと)を理由に、名誉権侵害にあたらないと判示しました。 また、「当該事実を公表する利益が、事実を公表されない利益を上回ること」を理由に、違法なプライバシー侵害にもあたらないと結論づけました。 ――パリ五輪でもアスリートに対する匿名の誹謗中傷があったとされています。もしも今回、重定さんが実名で同じ投稿をしていた場合、判決の結果は異なっていたでしょうか 今回の判決では、「関係者と思しき匿名の人物から、身に覚えのない投稿を立て続けにされたこと」が、慰謝料額算定の場面で考慮されています。そのため、仮に、重定さんが実名で投稿していれば、賠償額は減額された可能性があります。 また、その場合、発信者情報開示請求訴訟の費用も掛からなかったはずですので、その費用も賠償額から除外されたでしょう。 ――最後に判決の評価をお願いします 今回の判決は、記事内容の解釈、賠償額算定の両面において、同種事案における他の判決よりも、投稿者に厳しい内容だと感じます。特に慰謝料額については、記事数及び内容に照らして、相場よりも、かなり高額だと考えられます。
●小野寺さん「判決に満足しています」、重定さんは「ノーコメント」
以上が田中弁護士の解説となる。 弁護士ドットコムニュースの取材に、小野寺さんは「判決に満足しています」と答えた。重定さんにも取材を求めたが、代理人弁護士を通じて「ノーコメント」とした。 【プロフィール】 田中 一哉(たなか・かずや)弁護士 東京弁護士会所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在、ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除、投稿者に対する法的責任追及などに従事している。 事務所名:サイバーアーツ法律事務所 事務所URL:http://cyberarts.tokyo/