井浦新が気付いた“当たり前”を変えていくことの大切さ 「幸せになることで誰かを幸せに」
「人との関わり合いが、人生にとって尊い財産になっていく」
――劇中では、ハビエル(ゴヤ・ロブレス)の姪っ子のお父さんがスペイン語でスピーチをするシーンで、ヒデキの表情が変わっていく姿が印象的でした。井浦さんの中でも、何か変化を感じるようなことはありましたか? 井浦:英語さえも完璧には理解できてないヒデキにとって、スペイン語はなおさら何を言ってるかわからなかったと思うんです。でも、お父さんが“娘への想い”を伝えていることはわかりますよね。僕は言葉がわからないからこそ、なおさら父親が娘を想う、人が人を愛することを、すごく感じ取ることができたんだろうと想像しました。だから、ヒデキの心が変わったというよりは、そういったものに涙するような人じゃなかった彼の凝り固まった心がほぐれていった。親子の愛とか、人との関わり合い方で、心が動くようになったヒデキがそこにはいたんじゃないかなと思うんです。牧場でのやり取りやいろんな失敗を経て、いつの間にか自分が知らなかった世界に足を踏み入れてしまっていたことにも気付けたシーンなのかな、と。スピーチの意味はわからないので、人が人を想う気持ちがそうさせたんじゃないかと思っています。 ――ヒデキの婚約者であるケイコ(藤谷文子)との関係も含め、本作は人とのコミュニケーションについて気づきを得られる作品だと感じました。 井浦:恋愛だったり、仕事だったりもありますが、根本的には“人と人とのコミュニケーション”を描いた作品だと思います。人と関わることで、ときには厳しさ、つらさ、悲しさも生まれてくるけれど、そういうものもひっくるめて“豊かさ”や“幸せ”になっていくんじゃないかと。ヒデキは一人で突っ走るけど、やっぱり一人でやるには限界があって、モンタナに行って通用しなくなる。それでも和田さん(國村隼)の存在に背中を押してもらったり、ケイコとちゃんと向き合うことでモチベーションが変わっていったり、ハビエルと出会うことでやりたいことが広がっていったりするように、人は誰かと関わりあって、その中から生まれたことで景色が広がっていく。そういう人との関わり合いが、人生にとって尊い財産になっていくと思っています。 ――映画の公開は6月ですが、たとえば新生活でいろいろなことに悩んでいる人にとっても、この作品が教えてくれることはたくさんあるのではないかと感じます。 井浦:幸せの形は人それぞれだけど、どの人にとっても「決して一つじゃないんだ」ということが、このハートウォーミングな作品からどんどん広がったらいいなと思います。幸せは一つだけでも十分ですが、幸せが多いことにマイナスな要素はないと思うんです。もちろん、私利私欲のための幸せみたいになってしまうと、またちょっと話は変わってきちゃいますけど。自分の心が潤って、自分が幸せになることで誰かを幸せにできる。仕事でも、男女関係でも、ポジティブなものが生まれてくる幸せであれば、たくさんあっていいんだろうなって。この作品から、そんな温かい気持ちが伝染していってくれたら嬉しいです。 (文=石井達也)
石井達也