「えずいて食べたおにぎり」 10キロ超増量で再び夢舞台 明石商・井上 交流試合
六回裏2死二、三塁で左前適時打を放ち、スコアボードに先制点「2」を刻んだ。人生で2度目の甲子園。主軸の5番で大役を果たした。 【明石商vs桐生第一】熱闘を写真特集で 小学1年で野球を始め、「日本一になりたい」と明石商に入学。厳しい練習に耐え、2019年夏は2年生ながらもベンチ入り。準決勝で途中出場できたが、回ってきた1打席は凡退に終わった。「自分の力不足だから、しょうがない」。悔しさをバネに冬から体作りに励んだ。3食だった食事の回数を1日5、6食に増やし、「えずきながらおにぎりを食べた」。10キロ以上の増量に成功し、「今年こそ甲子園で活躍する」と気合を入れた矢先だった。 実家に帰省中の5月20日、同級生から「甲子園中止やって」と連絡を受けた。父裕司さん(48)は、普段と変わらないように振る舞う息子を見て、「かける言葉が見つからなかった。その日は野球の話はしないようにした」。しかし、自粛期間中も「2キロ以上体重を増やす」というチームの目標を達成するべく、1日約10合の米を食べ続け、全体練習がない中でも腐ることなくウエートトレーニングなどに励んだ。 迎えた桐生第一戦。中盤まで相手投手の緩急の利いた投球に苦しんだ。六回裏、前の打者がスクイズに失敗。一打先制の好機は続くが2死まで追い込まれて迎えた打席。「甲子園で野球できるのはこれが最後。絶対に勝って終わるんだ」。バットを短めに握り、放った左前打で2点を先制。チームに勢いをつけ、勝利を引き寄せた。 「去年みたいに大きな声援はなかったけど、やっぱり甲子園は広くて大きくていいな」。今年はブラスバンドやチアの応援は聞こえない。それでも人生2度目の夢の舞台でつかんだ「1勝」は何よりもうれしかった。「本音を言えば、もっと野球したかった」。この思いを大学へつなげる。【中田敦子】