線路を守る東鉄工業、「失敗ができる」唯一の場所とは?リアルな実習線に「架空の駅」、本物の大型保線機械も
研修センターは広さが約4万㎡。神宮球場のグラウンドが3つ入る面積の敷地に、教室や宿泊設備を備えた研修棟、土木・建築の実寸大模型を用意した実習棟のほか、屋外に駅のホームや踏切、トンネル、総延長約830mの4本の線路からなる実習線がある。「実習線を備えた研修施設としては、国内トップクラスの規模」(同社)という。全長40mのホームには「紫峰ヶ丘」の駅名標がある。 ■実習用の大型保線機械も レールは外部とつながっていないが、道床バラスト(砕石)をつき固める「マルチプルタイタンパ」や道床を整える「バラストレギュレータ」、資材を運ぶ「軌道モーターカー」といった大型保線機械も実習用に配備。それらのメンテナンスを学ぶ検修庫もある。脱線などを想定した異常時復旧訓練もここで実施している。
研修センターの大きな特徴が研修棟に設置した安全研修室だ。過去に同社で起きた重大事故を展示や映像、VR(仮想現実)で学ぶことができる。同社人材開発部の村岡正部長は「本来なら隠したくなるような事故であっても、原因や背景を正確に情報開示することが安全面の向上につながると考えている」と説明する。 研修センターでは10人ほどの専任講師のほか、現場の所長や主任クラスの約100人が兼任講師を務める。陣川博朗所長は「兼任講師によって教える側の層も厚くなっている。昔は先輩の背中を見ながら自分で学ぶものだったが、個人の能力や配属された現場によってバラツキがないように基礎をしっかり教えて一人前に育てるのが研修センターの役目だと考えている」と語る。
■「失敗できる」メリット 施設は自社グループだけでなく、協力会社の社員の研修や資格の取得、業界関係者の見学などで幅広く活用する。高校生や大学生のインターンシップといった採用面にも役立てるほか、地域住民向けの「ふれあいイベント」や小中学生向けの職業体験も開催している。 実際の営業線でのメンテナンス工事は、夜間の終電から始発電車までの限られた時間内に終わらせなくてはならない。陣川所長は「『失敗ができる』というのが研修センターの大きなメリット。昼間にゆっくりと確認をしながら実習することができる」と強調する。
最近では線路部門は2023年8月開業の芳賀・宇都宮LRTの軌道、2024年3月開業の北陸新幹線敦賀延伸のレールの敷設などの新線工事に携わった。土木・建築部門は鉄道インフラの耐震補強工事で強みを発揮する。村岡部長は「研修センターを活用して人材育成を強化し、さらに難易度の高い工事にも挑戦していきたい」と話す。 業界を問わず人手不足が深刻化するなか、充実した研修施設やカリキュラムを用意できるかが、人材確保のカギを握ることになりそうだ。
橋村 季真 :東洋経済 記者