「だまされたふり」作戦から「拠点急襲」へと作戦を変えた警視庁の狙いと成果
「拠点急襲」の強化へ
そこで警察庁が全国に指示したのが、詐欺電話をかけるかけ子のアジトを摘発して一網打尽にする「拠点急襲」の強化だった。 2013~2015年に警視庁捜査2課長だった幹部は「少しでも早くアジトをつぶして電話をかけさせないのが狙いだった。放っておけば被害者はどんどん増えるので、検挙によって抑止するという意識があった」と言う。 アジトを見つけ出すために捜査員は不動産業者やアパート経営者などを訪ねて情報収集するが、「マンションで昼間ずっと窓を全部閉めて真っ暗なのに音楽がかかっている」「マンションの一室に変な連中が出入りしている」などと市民からの通報が端緒になることも多い。 かけ子のアジトである可能性が高い場所が分かると、周辺の聞き込み捜査やアジトに出入りしている男らへの内偵捜査によって捜索差押許可状を請求するための材料を集めるという。幹部は「特定の詐欺事実の被疑者とまでは認定できなくても、関連先として疎明ができればガサ状は取れるので、そこを捜索し差し押さえする」と解説。捜査1課に依頼して誘拐や人質立てこもりを捜査する特殊班を拠点急襲に投入した。 特殊班が初めて急襲したアジトはオフィスビルの2階。約10人の特殊班員がはしごを使って表と裏から閃光弾を投げ入れて突入したが、現場の室内はぐちゃぐちゃになり、誰がどこに座っていたかも分からなくなった。逃げようとして窓から飛び降り、足を複雑骨折したかけ子もいた。後にこの捜索で押収した資料で現場にいたかけ子らを逮捕できたが、事件を担当した検事からは「現場が分からなくなるからもう二度とやらないでくれ」と苦言を呈された。 だが特殊班が現場を壊したのはこのときだけで、回を重ねるたびに拠点急襲はスムーズになり、素早くかけ子らの動きを押さえるようになった。アジトに突入すると同時にかけ子らが逃げたり、証拠を処分したりしないよう動きを封じた上で、直近の電話履歴から被害者と詐欺の事実を確認し、その場にいたかけ子全員を容疑者として捕まえるという流れだ。幹部は「特殊班は要領が分かると、(かけ子らを)瞬時に押さえ込むようになった」と話す。2015年は全国で60拠点を摘発、うち警視庁が30拠点に上る。 2017年は全国で過去最多となる68拠点を摘発するが、以降は減少傾向となり、22年は20拠点まで減った。拠点摘発で一網打尽にされるのを避けるため、拠点を賃貸のマンションやオフィスからホテルや車などに移して少人数で頻繁に移動しながら犯行を繰り返したり、海外に拠点を設けたりしたことが背景にあるとみられる。
甲斐 竜一朗(共同通信編集委員)