<下剋上球児>新井順子P&奥寺佐渡子氏が制作秘話を告白 試合シーンは「6時間くらいかけて考えています」
鈴木亮平主演の日曜劇場「下剋上球児」(毎週日曜夜9:00-9:54、TBS系)の最終話となる第10話が12月17日に放送される。このたび、本作のプロデューサー・新井順子氏と、脚本を手掛けた奥寺佐渡子氏にインタビューを実施。これまで、「Nのために」(2014年)や、「わたし、定時で帰ります。」(2019年)、「最愛」(2021年、3作品全てTBS系)などでタッグを組んできた二人にとって初の日曜劇場枠となった本作。野球ドラマを作る上で工夫したことや、オーディションで選ばれた球児キャストたちについて、そして、なぜ主人公が大きな秘密を抱えていたのか、その理由を尋ねた。 【写真】第9話にサプライズ登場した田中将大投手 ■ “ごく普通”の社会科教師が弱小高校野球部で“下剋上”! 同ドラマは高校野球を通して、現代社会の教育や地域、家族が抱える問題やさまざまな愛を描くドリームヒューマンエンターテインメント。 同作で、主人公・南雲脩司を鈴木が演じる他、黒木華、井川遥、生瀬勝久、松平健、小泉孝太郎、小日向文世といった多彩なキャストがストーリーを盛り上げる。 ■ キャストとの会話もヒントに「心して書かないと」 ――脚本をつくる上で球児キャストと事前に話す機会はあったのでしょうか? 新井順子(以下、新井):衣装合わせの日に一人5分ずつくらいでしたが、お話されましたよね? 奥寺佐渡子(以下、奥寺):そうですね。実はその時点で脚本を第3話くらいまで書いていたのですが、あまりにもイメージにぴったりな人ばかりで驚きました。 ――キャストとはどのようなお話をされたのですか? 奥寺:こちらからはキャラクターの説明をしたのですが、お話をした段階ではまだ脚本を書いている最中だったので、むしろプレイヤー側の気持ちを取材させていただきました。みんな野球をやり込んでいるので、“心して(脚本を)書かないといけないな”という気持ちになりました。 ――実際に対面して特に“イメージ通りだな”と感じた方を教えてください。 奥寺:ほとんど皆さんそう感じました。翔(中沢元紀)くんもそうですし…楡(生田俊平)に関しては“よく見つけてきたな”と驚きました (笑)。 ■意識しているのは「気持ちで見られるように」 ――野球のルールがあまり分からない方も楽しめるように工夫した点があれば教えてください。 奥寺:脚本をつくる上で“気持ちで見られるように”というのは意識していました。野球もドラマの一部で、試合の中で気持ちがどう変わるのかということをちゃんと作らないと、野球が分からない方は置いてけぼりになっちゃうよね、という話はよくしていました。 ――脚本の制作から撮影通して難しかったことはどういった部分でしたか? 奥寺:試合の内容ですね。野球って約2時間試合をすると思うのですが、複雑で高度なスポーツだからこそ、一球、一打席で勝敗の流れが変わってしまうので、それをどうダイジェストにしたらいいか分からず…細かい部分は、野球経験のあるスタッフさんや監督たちと話し合いながら決めていきました。なので、どの試合シーンもものすごい人数の方が関わっています。 新井:脚本の中で、奥寺さんが「ここでこういう気持ちになる」とか「ここで試合が逆転する」とざっくり流れを書いてくださっているのを見て、監督と野球経験者の方とで6時間くらいかけて細かい部分を考えています。「ここで楡の打順が回ってきて、これを打つ。だから打順はこうしよう」とか。 でも、現場で変わることも多々あって。最初の頃は「レフトに飛ぶ」って書いてあったら、レフトにいくまで何十球でも打っていたのですが、だんだんと「もうレフトじゃなくて良くない?」ってなるようになって(笑)。打てた内容に合わせて実況も変えるようになりましたね。 実は脚本に実況は全く入っていないのですが、実況がないとルールが分からない人にとっては「ピンチなの?チャンスなの?どういう状況?」ってなると思うんです。第1話の試合シーンには実況が入っていなかったのですが、試合展開がよく分からなくて。 そんな中で、第2話のときに奥寺さんから「ラジオを入れたい」と提案してくださって。犬塚(小日向)がラジオ中継するという設定を入れてみたところ「実況あるのとないのとだと全然違う!」となり、以降全ての試合に実況を入れることになりました。 ――実際に映像で見て心動かされた演技はありますか? 奥寺:全部なので具体的に挙げるのは難しいのですが…やはり鈴木亮平さんは素晴らしいですね。(南雲は)矛盾を抱えていたりといろんな要素を持っている人物なのですが、先生をやっているときも、無職のときも、監督をやっているときも、ちゃんと一つの人間の中にその要素が入っているというのは、やっぱりすごいなと。特にみんなに叩かれているときに体が小さく見えるというのは驚かされましたね。 ■一年という時間をかけて球児キャストの表情も変化 ――印象に残っている反響はありますか? 新井:球児キャストたちは元々球児だった人も多いのですが、引退してからかなり時間が経っているんですよ。一番近くても2年、長い人だとプレーしていた頃から5年が経っているので、それが視聴者の方の目にどう映るのかなと思っていたのですが、ちゃんと球児に見えているようで…野球ファンの方からも「フォームがきれい」と言っていただけて、うれしいです。 あとは「すごく成長したな」というコメントや、「1年生のときの顔と現在の顔が全然違う」という感想をよく見ますが、実際私もそう思います。演じ分けているのか、撮影期間を経て彼らが変わったのか…。 昨年の12月に募集を始めて、そこから彼らは野球の練習をスタートさせて、丸一年経っているので、いろいろな思いがあるんだと思います。第8話(12月3日放送)のせりふにもありましたが「もう終わっちゃうのか…」「ずっとやれたらいいな」みたいな感覚が本人たちにもあって。顔つきにも出てきていて、現場でも「エモい、エモい!」って言っていました(笑)。 反響は球児キャストたちの元にも届いているようで、毎日のように「フォロワーが〇人になりました!」って報告に来てくれるんですよ、少年のようですね。 ――球児キャストそれぞれがドラマの中で大きく成長しているい印象がありますが、特に変化を感じるキャラクターはどなたでしょうか? 新井:椿谷(伊藤あさひ)は、初心者で入ってきて、ボールにバットが当たらないところからスタートしましたから…まさかキャプテンになるとはって感じですよね。実は、日沖(菅生新樹)たち3年生が卒業したタイミングで、球児たちがまとまらない時期があったんです。 そこで富嶋(福松凜)を呼んで「君がキャプテンなんだから仕切って」とお願いし、富嶋たちが卒業したら椿谷に「キャプテン、仕切って」と。伊藤くんは椿谷を演じていないときもキャプテンとして常に現場を引っ張ってくれました。 ――ストーリーに関する裏話があれば教えてください。 新井:実は第9話の準備稿では、向かっている最中に山林で車が故障して「たどり着けないかも!?」という展開で終わろうとしていたのですが…。 奥寺:あったね(笑)。 新井:「やってみたい!」という私のリクエストを受けて脚本に盛り込んでいただいたのですが、改めて読んでみたときに「これいる?」ってなって。 (原案作品には)練習試合のときにバスが壊れて、近くの学校に頼み込んでバスを貸してもらったみたいなことが書いてあったので“ハラハラする展開も必要かな?”と思ったのですが…助監督にも「これいります?普通に着いてよくないですか?」と言われて(笑)。 奥寺:あと実際に第10話を書いてみたら、バスのトラブルを書く余裕がなくなってしまったというのもあり、変更になりました。 ■「どういう道を歩むのか、見届けていただけたら」 ――第1話放送前から主人公・南雲が抱える秘密というのが一つの軸でしたが、なぜここまで大きな秘密を抱える主人公にしたのでしょうか? 新井:野球ものに限らず、学園ドラマって先生側の物語ってあまりないじゃないですか。1話ずつ、今週はこの生徒の話、次はこの生徒と描かれることが多いと思うんです。 今作を作るにあたり、先生の教員免許がないという設定は元々なかったのですが、全10話の中で南雲をどうやって成長させるか悩んでいたときに、教員免許を持っていなかったというニュースを偶然見かけて。 「下剋上球児」という作品名ですが下剋上するのは球児だけなのか、というと主人公はあくまで先生なのでそれだけだと違うなと。先生も下剋上するというストーリーにするために、今回の設定にたどり着きました。 ――数々のヒット作を共に作り上げてきたお二人ですが、作品を作る上での“共通意識”はありますか? 新井:特にないような気がしていますが…強いて言うなら劇的なことが起きないようにしています。 奥寺:そうかもしれませんね。結果的に今回はドラマっぽくはなっているような気もしますが(笑)。 新井:(笑)。でも、あくまで“そんなこと現実で起こらないよね?”という展開にはしたくなくて。 奥寺:現実でもありそうだけれどドラマとしてもちゃんと見てもらえる、その絶妙なラインを探っています。 ――新井プロデューサーから見た、奥寺さんの書く脚本の魅力はどういった部分でしょうか? 新井:やっぱりせりふが素晴らしいなと思います。塚原監督も取材の中で言っていたと思うのですが“優しい”という表現がぴったりで。何気ない一言がグッとくるというか…一方で、演出がとても難しいんですよね。 その一言の意味というのがスッと入ってくるからこそ、その言葉がどこにかかっているのかというのを読み解かないといけなくて。 奥寺:これからはもっと分かりやすく書くようにしますね(笑)。 ――最終話に向けてメッセージや見どころをお願いします。 奥寺:見どころは、南雲自身も高校時代に決勝戦で負けるという苦い思い出もある中で、生徒たちや山住先生にチャンスをもらって決勝の舞台に挑む、というところでしょうか。 新井:野球のその先にあるものは何なのか、ぜひ見ていただきたいです。 奥寺:勝ち負けだけじゃないですよね。 新井:勝ち負けはさておき、試合中のやり取りだったり、その中で生まれる感情があって…勝っても、負けても、終わりは来るので。大会が終わった後、南雲を含めた彼ら、彼女たちがどういう道を歩むのか、見届けていただけたらと思います。 ※このドラマは「下剋上球児」(カンゼン/菊地高弘 著)にインスピレーションを受け企画されたが、登場する人物・学校・団体名・あらすじはすべてフィクションです。