さるぼぼ品薄続く、観光客戻り売り時なのになぜ コロナ禍に職人半減「5年後には…」後継者育成急務
岐阜県観光の土産品として人気の飛騨の民芸品「さるぼぼ」がピンチだ。新型コロナウイルスの感染拡大で売り上げが低迷した時期に多くの職人が離職。観光客が戻ってきた今、作り手が不足する事態に陥り、高山市内の土産品店などでは品薄状態が続いている。製造業者は「外国人観光客の数が回復し、出せば売れる状態なのに肝心の商品がない」と頭を抱えている。 「コロナ禍のときはここに在庫がたくさんあったんですが…」。さるぼぼを製造する同市上岡本町、「オリジナル」の中澤淳社長(39)が指さした棚には、商品の入った段ボールがほとんどない状態だ。 1976年に創業した同社は、さるぼぼを現在の形に整え、かわいらしい土産品としてブランディングした先駆け。赤色だけにとどまらず、カラフルなさるぼぼや動物をモチーフにしたさるぼぼなど数百種類を作る。しかし、コロナ禍で数百人いた内職者は半減、商品数を減らさざるを得ない状況に追い込まれている。中澤社長は「内職者の中心は60代以上。年齢を理由に一度辞めてしまうとなかなか戻ってきてくれない」と嘆く。 さるぼぼ作りは、材料の布を裁断、頭や胴体に綿を詰めてミシンや手で縫い、腹当てやちゃんちゃんこを着せて仕上げる。工程ごとに分業制で、1体に最低3~4人が関わる。「頭の角度や手の先の形など、思い通りのさるぼぼを作るのは簡単なことではない」と中澤社長。経験の浅い若手でも作りやすいように社内で独自の設計図や解説動画を作るなど、試行錯誤している。 同じくさるぼぼを製造する同市本母町の「愛和工芸」でも内職者の数は激減。新たに人材を募集しても、仕事を始めてすぐに「自分には無理だ」と短期間で辞めてしまうという。内職者は従業員ではなく下請け扱いのため、コロナ対策の雇用調整助成金の対象外だった。「内職者を守ることができなかった」と森林良太社長(40)は唇をかむ。「パートの時給に比べて内職者の賃金は低い。それでも後継者を育てていかないと、10年後どころか5年後が心配だ」と不安を口にする。 現在県内に出回るさるぼぼは、ほとんどが「飛騨のさるぼぼ」の地域ブランドで製造された、飛騨のさるぼぼ製造協同組合に加盟する両社と「もみの木」(同市久々野町)の製品。3社とも状況は似通っており、それぞれ7月に一部商品の値上げに踏み切る。「内職者の待遇を少しでも良くしていくためにも、『メイド・バイ飛騨高山』としてのブランド価値をより一層高めていく必要がある」と森林社長。中澤社長は「さるぼぼ作りは時間や場所に縛られず、自分のペースで作業できる。こうした働きやすさをアピールしていく。行政にはさるぼぼ作りに携わるメリットを増やす施策を打ち出してほしい」と訴える。
岐阜新聞社