認知症の理解を当事者の思い 当事者だからできること〈宮城〉
12月18日に行なわれた宮城県の「認知症応援大使」の委嘱状交付式。任命された4人は全員認知症の当事者で、自ら、認知症を正しく理解してもらうための様々な活動をしていきます。 厚生労働省の推計では、認知症とその「予備軍」はおととしの時点で1000万人を超え、高齢者のおよそ3.6人に1人となっています。 誰もが認知症になり得る時代と言えますが、そうしたなかで政府は「新しい認知症観」というものを提唱しています。認知症になっても「何も分からなくなる、できなくなる」のではなく「分かることやできることがあり、自分らしく暮らしていける」という考え方で、それを前提に認知症への理解を広げようとしています。 県の「応援大使」もそのような考えに立った取り組みの一つです。任命された認知症の当事者の一人に思いを聞きました。 宮城県栗原市に住む、遠藤実さん(64歳)。自宅の小部屋にカラオケができる設備を整えてから、マイクが放せません。 記者「点数どうですか」 遠藤さん「いいですねー」 記者「調子はどうですか」 遠藤さん「調子はいいですよ」 長年、小学校の教員を務め、60歳で校長を退職して2カ月後。時計の数字が分からなくなるなどの異変を感じて病院に行ったところ、若年性アルツハイマーと診断されました。 遠藤実さん 「薬なんかどうでもいいやと。あの時点ではすごかった。がっかり。自分でない自分みたい。大きい声で『馬鹿野郎』みたいに叫んだりとか」 妻・麻由美さんも、今後の生活をどうしていけばいいのか戸惑ったといいます。 妻・麻由美さん 「家にいて、時間が経つのを、ただただ待つ」 遠藤実さん 「息子たちには怒鳴ったりね。かごの中にいるようなこと」 周囲にも打ち明けられず、2人は、かごの中に閉じ込められた感覚に陥ったといいます。 遠藤さん夫妻が悩んでいたころ、地区の行政区長を務める川村幸雄さん(73)が、地域と遠藤さんの橋渡し役になったといいます。 川村幸雄さん 「私の妻の母が103歳で亡くなったが認知症がすごかった。その時に私、無知だったのでやっぱり何か認知症について理解していれば介護も違ったかなという思いがあって」 川村さんは地域包括支援センターなどと連携して、「オレンジカフェ」の運営を2年前から始めました。当事者やその家族などが認知症をオープンにして集まれる場所を作るものでこうした取り組みは、全国で地域の実情に合わせた形で行なわれています。 参加者 「ここに来てのお友達」 Q.そうしたつながりもできる 「そう、楽しみ」 川村さんの声がけもあり、このオレンジカフェに参加するようになったころから遠藤さんの意識にも変化が生まれました。 遠藤実さん 「(ここに来るようになって)変わりましたね。まさかこんなに(認知症の当事者が)いるってことも予想もしてなかったですし、かごの中にいるのではなくて、取っ払って自分でやれることをやるということを進めていきたい」 できないことを嘆くのではなく、前向きに、できることを。 大好きな歌で、今では盛り上げ役となっている遠藤さん。カラオケは、認知症の症状の改善にも効果があるとされています。 誰もが認知症当事者や、その家族となり得るいま。 遠藤さんは自らの経験をほかの人たちにも生かしてもらいたいと、出前授業などにも取り組んでいます。 遠藤実さん 「自分が先輩当事者と出会って、病気になっても自分を取り戻せたように、私にできることがあれば、いつでも皆さんの力になりたいと願っている」 妻・麻由美さん 「私は介護者ではなく、伴走者でありたいと思う。介護者というと全部やってあげないといけないっていう言葉のイメージがあるので伴走者でありたい。困ったことは一緒に乗り越えるし、できることは一緒にやってもらうし。楽しいことは2人で楽しむ。普通通りにやっていて困ったことがあったら、みんなに頼りたい。そういう頼れる存在のひとりに皆さんになってもらえれば」 生徒 「前向きに頑張っていこうと、進んでいる姿がすごいと思った」 「今回の話で聞いたことを生かして、接していきたい」 自宅に戻ると、昼食をとりながら、出前授業を振り返りました。 妻・麻由美さん 「話が違うところにいって、どこに落ち着くのかなって。でもちゃんと落ち着くところに落ち着いたから。立派です」 妻・麻由美さんが話す、今までと、これから。 妻・麻由美さん 「若年性アルツハイマーという病気がふってきて、最初はどんよりしてしまった。でもこうやって、いろんな人たちの支えがある中で、新しい人生がここから始まるんだな」 遠藤実さん 「大きかったね。想像できない人生だったけどでも、いい人生だなっていい人生がこれから始まるかなって」 12月18日、遠藤さんたち当事者4人は県の「認知症応援大使」の委嘱状を受け取りました。認知症を知ってもらう活動に取り組みます。 遠藤実さん 「たとえ認知症になったとしても、人生には希望が溢れている。その力をくれるのは家族、友達、地域の人々と考えています。大使として多くの人たちに伝え勇気づけていきたい」
仙台放送