中国時代劇の新たな人気ジャンル“お屋敷ドラマ”『恋心は玉の如き』
中国時代劇と言えば実在の皇帝や皇后が登場する歴史大作や宮廷ドラマをイメージするかもしれないが、近年では架空設定の作品が増えジャンルも多様化してきている。中でも今、日本で注目されているのが上流階級の一族を主人公にしたお屋敷ドラマだ。 このジャンルは欧米ドラマなら『高慢と偏見』『ダウントン・アビー』といった名作が思い浮かぶが、中国ドラマにはいったいどんな面白さがあるのだろうか。中国お屋敷ドラマの代表作と言うべき大ヒット作であり、BS11(イレブン)にて11月27日から放送スタートする『恋心は玉の如き』を取り上げてその魅力をひも解いていきたい。
侯爵と複数の妻たちを巡る愛憎劇
『恋心は玉の如き』の時代設定は明の時代。架空の人物として登場する徐令宜(じょれいぎ)は侯爵の爵位を持つ武官で妻は正室のほかに複数の側室がいる。それは決して彼が色好みというわけではなく身分の高い家柄であれば政略結婚は避けられないため。彼は水面下で争う妻たちを持て余しつつ夫として最低限の務めを果たす毎日だ。 そんなある日、徐令宜の正室が病のため若くして余命わずかとなる。遺していく幼い一人息子の将来を心配する彼女は夫に異母妹を次の正室に迎えてほしいと頼み、その望みを聞き入れた彼は彼女の死後、聡明で思慮深い羅十一娘(らじゅういちじょう)と婚礼を挙げる。ところが、自分こそが徐令宜の正室にふさわしいと考えていた我儘な令嬢・喬蓮房(きょうれんほう)が側室として嫁いできたことから、妻たちの争いは一気にきな臭くなってくる。 そんな一夫多妻のお屋敷で起こる愛憎劇は皇帝の妃嬪たちがしのぎを削る宮廷の闘争劇と同じくスリリング。知恵と正義感のある羅十一娘はどのように危機を乗り越えて正室としての地位を守っていくのか。時には面白い頓知も利かせてライバルに反撃していくヒロインの奮闘から目が離せなくなる。
謎解きミステリーと夫婦のロマンス
さらに物語は羅十一娘が母親の死の真相を解き明かしていくエピソードも大きな見どころとなる。当初、羅十一娘は結婚を望まず母親と一緒に遠くへ逃げようとしていたが、その途中で母親が何者かに襲われ遺体となって発見される悲劇が起こっていたのだ。 そして、ある手がかりからこの件に徐家が関係しているのではないかと考えた羅十一娘は、逃げるのをやめて徐令宜に嫁ぐと密かに事件のことを調べ始める。この謎解きミステリーは二転三転しながら進行し予断を許さない展開で最後まで視聴者を引きつけることに。しかも海上貿易が禁じられていた明の時代背景を踏まえたサスペンスが描かれ、徐家の愛憎劇というミクロな視点が朝廷の政争というマクロな視点へと拡大していくストーリーテリングが秀逸だ。 また、このようにマイナスの関係から始まった羅十一娘と徐令宜の夫婦の物語が思いがけず甘いラブストーリーへと転じていくのは、「先婚後愛」(「結婚してから愛を育む」の意)のプロットが得意な中国ドラマらしい演出。羅十一娘は徐家を守る重責を果たすため心を閉じていた徐令宜の真心に触れ、羅十一娘によって自分を取り戻した徐令宜は彼女と掛け替えのない愛を育んでいく。その過程を奥ゆかしい繊細な描写で綴るシーンの数々は心が洗われるような感動をもたらしてくれる。