山本昌、涙なき引退会見。「野球が好き。50歳までやれた原動力」
――将来は中日で指導者に? 「投げることは、32年、精一杯勉強した自負があるが、それ以外は素人。野球全般のことは意外に知らない。今は知識がない。しっかりと勉強してまたユニホームを着るチャンスをいただけるようにしたい」 ――今後は、封印していた趣味の世界を復活? 「いろんな趣味を持っていたが、この5年は野球と向き合い、アンテナをすべて野球に向けた。野球にすべてを捧げないと野球そのものができない状態だった。すべてを出し切ってやれた。自分でがんばれたというのも変だが、みなさんがやっていない年齢まで試行錯誤しながらやれた。もう少しいきたかったが、今は、後悔はしていない。今後は、クワガタを育てるのは奥さんだめなので、ラジコンかな。ラジコンは、世界チャンピオンと連絡をとりあって、復活する話もチラホラしている。日本で世界戦があるので、そのスポンサーをやろうと考えている。星野さん(仙一・楽天副会長で、中日時代の監督)から、『一生野球のことを考えて終われ』と、報道を通じて激励をもらった。遊んでいると叱れらそうだが、ラジコンくらいはやりたい」 ――ラスト登板は、50歳登板となる? 「カープもCS争いの真っ最中だから、軽々しく自分のことを話できない。もし決着がついていて、お許しをもらえるならば、全力で投げられないが、もう1回マウンドに立ちたい。32年の最後の登板が、スリーボールで降りた途中降板では嫌。おそらく打者一人になるだろうけど、もう体のことを気にせず全力で投げたい」 ーー背番号34は? 「これは球団にお返しするもの。ドラフト5位の僕にこんな夢のようないい番号をもらって驚いたことを覚えている。一生好きな番号。できれば、左ピッチャーにつけてもらいたいかな」 ――若い後輩へのメッセージは? 「やれるときにしっかりやる。チャンスはそんなに多くないよ、そういうことを後輩に言いたい。勝つときは勝つ、優勝するときは優勝する、だが、伸びるときは、そう多くない。あのときこうしておけばと、過ぎてから気づくことが多いが、常に準備をしていると、その悔いは少なく済む。野球している時間は、そう長くない。そういう話を伝えたい」 会見を終えた山本昌は「これで何分?」と報道陣に聞いた。 1時間ほどだと聞かされると「これからは、講演なんかもしていかなくちゃいけないけど、MCがいないと1時間は一人で喋れないなあ。鉄板ネタはあるけれど、30分が限界かな」と言って周囲を爆笑に包んだ。 「あと数日で、サインにもう、中日ドラゴンズの山本昌とは書けなくなるのか」 どこか寂しげだったが、「泣き虫な僕が会見で泣かなくてよかった。かみさんには『泣かないでよお』と言われていたからね。50男がビービー泣いても格好悪い」と、また和やかな空気を作った。 おそらく最初で最後であろう50歳の現役投手は、引退会見というケジメをつけると、その足で広島へ向かう新幹線に乗った。ちなみに広島地方の天気予報は雨。「雨らしいので、もう少し寿命が延びるかな」。山本昌は、そう言って笑った。素晴らしき32年の野球人生に乾杯! (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)