圧倒的不利の下馬評を覆し…樟南はなぜ鹿児島実を完封できたのか【24年夏・鹿児島大会】
<第106回全国高校野球選手権鹿児島大会:樟南 5-0 鹿児島実>22日◇準々決勝◇平和リース球場 【トーナメント表】夏の鹿児島県大会 結果一覧 樟南と鹿児島実。鹿児島では何かと注目される「伝統の一戦」だ。 「今年はどうなりそう?」。顔見知りの記者に聞かれて思わず「鹿児島実優位」と答えた。どちらもシード校だが、この1年の実績と前評判には大きな差があった。 春優勝、NHK旗ベスト4で第3シードの鹿児島実には150キロ右腕の井上 剣也(3年)をはじめ、近年まれにみる豪華投手陣がそろい、主砲・原田 颯馬(3年)ら好打者もそろっている。 一方、第6シード樟南は春、NHK旗とも8強止まり。この1年間で4強以上に進んでいない。メンバーに3年生が少なく、1、2年生が多数スタメンに名を連ねる。 そんな根拠で「鹿児島実優位」と答えたが、そんな予想ほど往々にして外れるのが高校野球。先発投手、右横手の樟南・犬窪 晴人(2年)の実力は未知数だが、「これがはまれば樟南にも芽があるのでは?」と保険をかけておいた。「予想」は見事に外れ、樟南の底力を思い知らされた一戦となった。 3回までは両者無得点。均衡が破れたのは4回表だった。樟南は2番・塚原 隼成(2年)が四球で出塁。3番・坂口 優志主将(3年)のところで思い切ったエンドランを仕掛けると、坂口優がうまく右方向に運び、返球が乱れる間に無死二三塁と絶好の先制機を作った。 スクイズを外され万事休すと思われたが、三走・塚原がタッチをうまくかいくぐって生還。続く6番・政野 宏太(2年)は投ゴロで、飛び出した三走・坂口優が再び挟殺となるかと思いきや、三塁悪送球で生還。幸先良く2点を先取した。 6回には7番・篠原 流依(2年)が特大の中越え三塁打を放って3点目。7回は2番・塚原の右前適時打で4点目を挙げた。9回には2番・塚原がスクイズを決め、ダメ押しの5点目を挙げた。 どこかで流れを変えたかった鹿児島実だが、頼みのエース井上が攻略され、打線も右腕・犬窪の前に8安打放ちながらつながりを欠き、最後まで本塁を踏めず、完封負けだった。 過去の実績や前評判は関係ない。「それぞれが自分の役割を果たす」(山之口和也監督)ことができれば、道は開ける。そんな執念を樟南ナインが発し続け、宿命のライバル・鹿児島実を完封で退けた。 鹿児島実とは昨夏も同じ準々決勝で対戦し、1対5で敗れている。「絶対にリベンジしたかった」と坂口優主将。4回には無死一塁で右前打を放ち、悪送球も重なって二三塁と好機を広げた。「3年生が少ない中で、自分が打つことで下級生を勢いづけたかった」役割を果たし、相手のエラーで2点を先取するお膳立てをした。 完封劇に大いに貢献したのは犬窪、篠原の2年生バッテリーだ。「鹿児島実は良い打者がそろっているので、強気で攻めた」と犬窪。右横手から最速130キロの直球とタイミングを外す変化球との緩急、ベースの横幅を巧みに使い分ける配球、ここぞという場面では高めに伸びてくる直球が威力を発揮し、鹿児島実打線に8安打されながら、本塁を踏ませなかった。 特に1番・満留 裕星(3年)、3番・下原口 仁(3年)、6番・西 悠太朗(3年)、今大会好調の左打者3人を7回まで無安打に抑えて仕事をさせなかった。満留は「外のボールを流すのがうまいので、外を見せておいて内で仕留める」(犬窪)など、3人の特徴を分析した上での配球が功を奏した。 3回には左翼手・村上 竜之介(3年)が好返球で本塁アウトを取るなど、「守備からリズムを作る」(坂口優主将)持ち味も発揮。ベンチメンバーは声で盛り上げてチームの雰囲気を作った。この1年間、県大会8強止まりで涙をのみ続けた樟南が、集大成の夏に大きな壁を乗り越えた。