音よりも速い! これが「ポルシェ918スパイダー」のすべてだ! 日本初上陸時の富士スピードウェイ全開アタック、同乗試乗リポート! 音の2倍の勢いで加速スーパースポーツ【アーカイブ】
タイムはもっと伸びる!
ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2015年1月号に掲載されたポルシェのハイブリッド・スーパー・スポーツ、918スパイダーの同乗試乗リポートを取り上げる。ついに上陸した918スパイダー! その実力はどんなものなのか? SUPER GTドライバーの藤井誠暢選手が富士スピードウェイの本コースを全開アタック! 【本篇・写真17枚】富士スピードウェイで300キロオーバーを記録したポルシェ918スパイダーの詳細画像はこちら ◆全世界で918台 秋の陽が傾き、富士スピードウェイに長い影を作るようになった頃、レーシング・ドライバーの藤井誠暢選手によるポルシェ918スパイダーの全開アタックがスタートした。 全世界で918台が限定生産される918スパイダーは、ポルシェが最新のテクノロジーを惜しげもなく注ぎ込んで作り上げた究極のスーパー・スポーツカーで、カーボン・モノコックに搭載したレーシング・エンジン由来の4.6リッター V8は、2基の電気モーターと組み合わされて最高887psという途方もないシステム出力を絞り出す。 そのパフォーマンスは文字どおり圧倒的で、ニュルブルクリンクでロード・カー最速となる6分57秒を記録したことは記憶に新しい。ここでもかなりの好記録をマークするだろう。スーパーGTで何度も優勝してきたプロのレーシング・ドライバーは、918スパイダーで一体どんなラップタイムを叩きだすのか? 918スパイダーはピット・ロードからコースに向けて全速力で加速していった。そのサウンドは自動車のものというよりもジェット機が離陸するときのような金属音に近い。1度ホーム・ストレートを走り抜けてから918スパイダーはピット・ロードに滑り込んできた。 ◆1分47秒609! ラップ・タイムは1分47秒609! ロード・カーで1分50秒を切るのは至難の業とされる。事実、藤井選手がこれまでに911GT2RSで記録した最速ラップは1分51秒。ところが918スパイダーはこれを4秒近くも短縮したのだ。もはやロード・カーの水準をはるかに超えているといっても過言ではないだろう。 「オオタニさん、凄い! この速さはハンパないですよ!」 藤井選手は、頬を紅潮させながらそう言うと、私を助手席に促した。 続く2周の同乗走行で、私は藤井選手の言葉にまったく誇張がないことを思い知らされた。しかも、ただ速いだけではない。まるでコースの上を浮遊しているかのような未来的な走行フィーリングを、918スパイダーは満喫させてくれたのである。 コクピットから降り立ち、ヘルメットを脱いだ藤井選手は「だから言ったでしょ!」という表情を浮かべながら私の顔をのぞき込んできた。 「いま、ストレート・エンドで300km/hくらいでしたよね?」と藤井選手。「でも、その前に僕がひとりで乗ったときには320km/h近くまで伸びましたよ」。まさかと思いながら車載カメラの映像を確認すると、たしかにデジタル式スピードメーターは316の文字を表示していた。 GPSを用いた計測結果は301km/hだったが、それにしても驚異的な数値であることには変わりない。ちなみに、今年レギュレーションが改正されて大幅に性能が向上したスーパーGTのGT500マシンが同じ富士のストレートで300km/hを越えたことがニュースになったが、それも参戦する3メーカーのうちの1メーカーだけ。それと肩を並べる速さを、ロード・カーの918スパイダーはいとも簡単にマークしてしまったのである。 「なんだかこのまま空を飛んで行っちゃいそうな速さですよね」と藤井選手。「しかも、エンジン音から感じられる加速感よりも、実際の加速感のほうがはるかに速い。まるで音の2倍の勢いで加速していくような感じ。ちょっと怖いくらいです」 実際、ピット・ロードで藤井選手が918スパイダーにフルスロットルを与えたとき、カーボン・コンポジット製シートに貼られた硬いクッションのなかに私の身体は2cmほどめり込んで、ちょっと痛いほどだった。けれども、タコメーターの針が5000rpmを越えて加速の勢いがいちだんと増してから起きた現象は、さらに驚くべきものだった。 とにかくシフトアップしようが速度がどんなに上がろうが、身体はずっと一定の力でシートに押しつけられっぱなしだったのである。きっと、シフトアップなどで加速Gに変動が起きそうなときには、電気モーターが素早くそれを察知して駆動力を補ってくれるのだろう。シームレスな加速感は“未来的な走行フィーリング”を生む要因のひとつだと思った。 もちろん、918スパイダーの速さは“電気頼み”だけではない。4.6リッターV8エンジンが絞り出す608psの大パワーも見逃せない。 「エンジン・レスポンスの良さは鳥肌ものですね。先日、数年前のF1マシンに乗る機会があったんですが、そのエンジンと比べてもまったく見劣りしません。レーシング・カーと比べても、レスポンスは相当鋭いと思います」 ◆重心高はホイール・ナット レーシング・カー譲りの動力性能以上に目を見張らされたのが、918スパイダーのシャシー性能である。 「とにかく重心が低い。着座位置も相当低いんですが、エンジンやバッテリーといった重量物が、自分よりさらに低いところに積まれているようです。こんなに重心が低いと感じたクルマはこれまでありません」 それもそのはず、918スパイダーの重心高はホイール・ナットの高さとほとんど同じだという。藤井選手が語った「重量物はすべて自分より低いところに積まれている」という印象は正しかったのである。 では、重心が低いことはクルマにどんな特徴を与えているのか? 「加速や減速のときに起きる荷重移動が明らかに小さい。そのほかにもロール方向とか、対角線方向の荷重移動なども驚くほど小さい。ボディの動きがほとんどないんです」 ◆藤井選手が語ったとおり、918スパイダーは富士スピードウェイを激しく走行しても、ピッチングやローリングがほとんど起きない。もっとも、ただボディの動きを抑え込みたいだけならスプリングやダンパーを徹底的に締め上げるという手もあるが、それでは路面のうねりにタイヤが追従しきれなくなり、結果的にロード・ホールディングの低下を招きかねない。 「ところが、“足”はすっごくよく動いているんですよ」と藤井選手。 「モノコックはカーボン製でものすごくガッチリしているから、タイヤだけが路面のうねりにあわせて上下できる。特に、リバウンド・ストローク側でもマイルドにタイヤが接地してくれるのは驚きでした。おかげでロード・ホールディングはとてつもなくいいし、4本のタイヤがいまどのくらいグリップしているかも手に取るようにわかります」 ◆富士スピードウェイで記録した恐ろしく速いラップタイム、しかも918スパイダーの乗り心地は天を仰ぐほど良かった。この918スパイダーとは、いったいどんなスポーツカーだったのか、そのリポートはENGINEWEBの本篇で! 文=大谷達也 語り=藤井誠暢 (ENGINE2015年1月号)
ENGINE編集部
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