「あれはね“アイラブユー”なんですよ」夢枕獏がこの1000年の中でも極めて異常な事態だと感じる安倍晴明フィーバーに思うこと
「とにかく安心して観てください!」
──先生が逆に、映画『陰陽師0』によって今後の小説『陰陽師』の創作にインスピレーションを受けることはありそうですか? インスピレーションというか、いつか博雅と晴明の出会いを書こうとは思っていたんです。今回は出会いの部分が描かれたので、ぼくがやるときは違うやり方にしようとは思っています。本作があったおかげで、逆に違うことを考える楽しみができました。 ──改めて映画への純粋な感想を教えてください。 本作のプロモーション用の取材で、すでに20回ぐらい言ったかもしれませんが(笑)。 最初に東宝スタジオで観たんです。スタッフがいて、監督と一緒に並んで観てたんだけど、どのタイトルでも映像化作品を観る前って原作者にはちょっとしたプレッシャーがあるんですよ。 でも、観た後に気が楽になった(笑)。「これイケるんじゃないの? これはくるんじゃないの?」と言ったのが最初の言葉だと思います。 ──手応えを感じられたと。 純粋にいい作品で、第一印象は「これが陰陽師だ」とか「陰陽師じゃなかった」とか「私の書いた晴明に近いな」とかそういう感想ではなくて「ああ~実にいい映画を観たなぁ」だったんです。映画としてとても素晴らしいものになったなと思ったんですね。 ──予告編にも切り取られていますが、晴明が博雅に「俺を信じろ」というシーンなど、グッときますよね。 やっぱりそこはね、落涙寸前ですよ。私的にはあれはね「アイラブユー」なんですよ。 それまで博雅にすれば晴明に対して「なんだよ、こいつ」みたいな要素もあって。でもちょっとは気になる。晴明は晴明で「博雅、うざい」という温度でずっと進んできたのが、いつの間にか「俺を信じろ」ですよ。 その言葉はもはや「俺とお前はもうラブラブだろ?」という前提が2人の間にないと言えないセリフじゃないですか。男女の関係だったら、もう愛の告白のシーンなんですよ、あそこは。 ──CGもヤバかったですね。 いやもうCGは、山崎貴監督と映画『ゴジラ-1.0』を作った白組(総合映像制作プロダクション)が担っているので。彼らは相当昔から本当にすごいですよ。 ──今後も小説『陰陽師』は永遠に書かれてゆく物語であって、最終回は描かれない気がします。 最終回はないですね。書かなくなるのはたぶん私が死んだときだと思っていて。そのときがラストでしょうね。でもまだまだこれからも、いろんな展開がありますよ(笑)。 ──小説『陰陽師』しかり、映画『陰陽師0』しかり、やっぱり強い衝撃でした。よくぞあそこまでロマンチックにしてくださいましたと感じています。映画を待ちわびるファンにメッセージを! 「とにかく安心して観てください!」につきます。原作小説や原作漫画のファンで実写化されると「私の思っていた○○様ではない」と思われる方が必ず一定数いらっしゃる。でもそれはもうしょうがないんです。しかし、今回はそういう心配は一切ありません。 それぞれが想う安倍晴明像と寸分違わぬ完璧に同じイメージなどはあり得ないけど、この映画については、「これは晴明じゃない」っていうセリフは出ないと思うんです。たぶんあなたが考えている安倍晴明像があれば、必ずその中のどこかに引っかかってくる晴明になっているはずなので、そういう心配はね、今回はいりません。 取材・文/米澤和幸(lotusRecords) 撮影/殿村忠博 場面写真/©2024映画「陰陽師0」製作委員会