孫正義が“超AI”に言及、NVIDIAやOpen AIは逃した魚、しかし「準備運動は整った」
自らの人生を振り返り、何も成し遂げていないことに気づき、悔しくて「大泣き」した孫正義氏、それから1年が経ち、ソフトバンクの使命がはっきりと見えたと語る。 【もっと写真を見る】
今回のひとこと 「ソフトバンクの使命がはっきりと見えた。それは、人類の進化である。大きく出たが、本気でやる。私がやるといったときにはやる」 ソフトバンクグループが2024年6月21日に開いた第44回定時株主総会では、同社の孫正義会長兼社長が議長を務め、約1時間に渡るプレゼンテーションを行うとともに、会場およびインターネットから寄せられた23件の質問に回答した。 声はかすれ気味だったが、「一昨日と、その前の日は、3時間しか寝ていない。だが、今日は4時間寝たので、ばっちり。頭がスキっとしている」と、この日を迎えた様子に触れながら、「私は至って元気」と発言。孫会長兼社長らしい久しぶりのプレゼンテーションに、会場を訪れた538人の株主からは、何度も拍手がわいていた。 「午前1時30分に寝て、午前4時30分ぐらいになると、勝手に脳が起こしてしまう。朦朧としたときにアイデアがでる。思いついたアイデアをノートに書いて、それをiPhoneで撮影して送信すると、約20人のチームが、24時間365日の体制で、5分以内にアクションすることになる。1年間で1008件の特許を出願した」としながら、「この1年間は、複雑な連立方程式のようなものを解いていたが、それが、今日の朝4時に解けた。やった!と思った。だから今日は、株主総会どころではない。うれしくて仕方がない」と、ジョークを交えながら近況を報告した。 ソフトバンクの使命が見えた 昨年の株主総会では、孫会長兼社長が、自らの人生を振り返り、何も成し遂げていないことに気づき、自分に悔しくて「大泣き」したエピソードに触れたが、今年の株主総会では、「この1年間で、ソフトバンクの使命がはっきりと見えた」と、孫会長兼社長が成し遂げるべきテーマの答えを見つけたことを示してみせた。 「ソフトバンクの使命は、人類の進化である」――。 こう切り出したあと、「これ以上大きな旗印を掲げることはないというほど、大きく出たが、これを本気でやる。私がやるといったときにはやる」と強い口調で宣言した。 では、なにをもって、人類を進化させるのか。 「ソフトバンクは、ASIを実現する」と語る。 「これを考えたのは2023年6月11日と、いまから1年前だが、本当にできるのかという点で疑問があり、誰にも言わなかった。この1年間は、毎日この1点だけに集中して、夜も寝ないで、朦朧としながら、右脳を使って考えてきた。先に触れたように、今朝、1年間考え続けた一番ややこしくて、難しかいところが解けた。これでASIがやれるということがわかった。1年を経過して、思いが決意に変わった」とする。 ASIは、Artificial Super Intelligenceの略称で、人間の知能を大きく超えた知能を持つAIの集合体であり、自己学習したり、自己進化を行ったりすることで、自ら知識や能力を向上するものになる。 これまで孫会長兼社長は、人間のような汎用的な知能を持った人工知能であるAGI(Artificial General Intelligence=汎用人工知能)については言及してきた。AIとAGI、そしてASIの関係を次のように説明する。 「AIは一部を機能化したものであり、AGIはAIの親玉みたいなものだ。人間が持つありとあらゆる考え方、知恵、知識を、全方位で、人間と同じか、最大でも10倍程度、上回ったものになる。AGIを目指すことが先端のAI研究者のテーマになっており、5年以内、場合によっては3年ぐらいでAGIの時代が訪れ、すべての人類の知恵を抜くことになるだろう。だが、それは一番賢い人間と同等のものであり、そこを目指しても意味がない。AGIが、脳の神経細胞のようにつながり、人間の1万倍賢くなる。それがASIである」と定義した。 人類は、様々な天才が刺激しあうことで進化してきたように、今後は、AGIがAGIを刺激して、人類の進化を加速するという。これが、ASIの時代の到来につながる。 「ASIは10年前後でやってくる。いまからの10年は、人類20万年の歴史のなかで、初めて人類が圧倒的に抜かれることになり、すべての常識が変わることになる」と指摘する。 具体的な事例のひとつが、ASIとロボットの組み合わせだ。 「スマートロボットがASIにつながると、工場での生産や道路の掃除、買い物の代行や洗濯もしてくれたりする。自動運転も高性能カメラやLiDARを使うのではなく、生成AIが運転の技能を学習し、一度も行ったことがない場所でもスイスイ自動運転ができる時代がやってくる。大量のモノの生産や加工、物流などはロボットに置き換わっていく」とした。 そして、「ASIは人間の英知の1万倍であるという指標を私が勝手に決めた」と語り、「孫正義が生まれた理由は、ASIを実現するためである。本気でそう思っている」と述べた。 ASI自らが夢を持ち成長する? 孫会長兼社長は、ASI自らが、志やビジョン、夢を持つことになるとも予測する。 「コンピュータには感情がなく、人間にしか感情が理解できないというのは思い込みである。感情は知的活動のひとつである。ニューロンの数がはるかに多いASIが、感情や意思を持てないはずがない。GPT-4でも感情のようなものが芽生え始めていると感じる。Open AIのCEOのサム・アルトマン氏も最近、同様のことを言っている。AIは、徐々に感情を持つ。それは時間の問題だろう。感情を極めていくと、志や慈愛といったものに昇華していく。ASIが人類を滅亡させるという人がいるが、それは逆である。人類を滅亡させかねない人間が何人かいる方がよほど怖い。ASIはもっと賢く、人々の幸せのために超知性を使って、人々を守るための役割を果たしてくれるだろう」と語った。 人間の1万倍の知恵を持つ何かが誕生したら 一方で、孫会長兼社長は、会場の株主にこう問いかけた。 「人間の知恵の1万倍を持つASIが登場したら、自分はどうしたらいいのかと、多くの人が思うだろう。そんなものが生まれてしまっていいのかとも思うだろう。仕事とはなにか、労働とはなにか、幸せとはなにか。そして、人間とはなにかという、根源に関わるような疑問が沸々と湧いてくるのではないだろうか」 そう切り出しながら、孫会長兼社長は自問自答するように、「それを問いただすべきである。かつてギリシャの哲学者たちが問いただしていたように、根本的な物事を考えることは大切なことである。なんのために1万倍の知性を生み出したいのか。私は、昨年、父を癌で亡くした。絶望に暮れて、大泣きしたが、1万倍の知性があったら解決できたのではないかと思っている。いまは、母親は脳梗塞を患っているが、この課題を解決するにはAGIが実現する人と同じ1倍の知性では駄目である。自動運転も人を減らすということでは志が低い。事故を1万分の1に減らしして、事故で亡くなる人を減らすのであれば自動運転をやる意味がある。地震などの自然災害やパンデミックによる絶望からも救ってもらえる。隕石が飛んできて、地球が滅亡するという危機に瀕しても、1万倍の英知があれば解決できるかもしれない。次の氷河期を避けることができる。人が必要だと思うことを、ASIがやってくれることになる」と述べた。 さらに、「一人ひとりが、仮想空間に自分のエージェントをいくつも持ち、友人やパートナー、メンター、師匠といった役割を果たす。ヒューマノイドをはじめとして、生活のなかに完全に融合する時代が来る。ASIは避けることはできない。いまから積極的に使い、最大限に活用して、それを活用して、周りの人々に貢献してほしい」とも要望した。 ちなみに、孫会長兼社長は、現在のGPTの使い方にもついても言及。「なにかを検索するといった用途ではなく、語り合いのパートナーとして使用している。アイデアの壁打ち、ディベート相手に使っている。それぞれに特徴を持たせた天才的科学者A、B、Cを設定し、それらを私の目の前でディベートさせる。違う角度から発想でコメントしてもらいながら、コンセンサスができるまで意見を戦わせる。面白く、有益である」と、孫会長兼社長ならではの活用方法を披露した。 armを中心にしたAIチップにも言及、NVIDIAとの逸話も 孫会長兼社長は、ASIの時代を支える技術のひとつがarmだと位置づける。 クラウドやデータセンター、エッジ(スマホ、自動車、ロボットなど)にも、armが利用されていることを示しながら、「armの出荷数量は世界最大であり、ありとあらよるところで利用され、ASIの広がりにも貢献する。出荷数量はあがることはあっても、下がることはない。armの強みは設計力であり、低消費電力で稼働する点である。NVIDIAのGrace Blackwellも、AWSのGraviton、マイクロソフトのCobalt、GoogleのAxionも、armのライセンスによって生産されている。スマホは99%のマーケットシェアといっているが、実質は100%である」とした。 また、armを中心とした「AIチップ」、シャープの液晶パネル工場跡地で展開する「AIデータセンター」、ソフトバンクが出資をしているボストン・ダイナミクスやソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資するロボット関連企業などと連携した「AIロボット」を通じて、ASIに対して、グループ総力で取り組む姿勢を強調。なかでも、「AIデータセンターは、ソフトバンクグループの総力をあげて、続々と世界中に作っていくべきであると思っている」と述べた。 質疑応答では、NVIDIAへの出資に関する質問があり、そのなかで初公開となるエピソードを披露した。 armを買収した翌月に、NVIDAのジェン・スン・フアン社長と、孫会長兼社長が持つ米カルフォルニアの自宅の庭で、約4時間に渡って、NVIDIAを買いたいと提案したという。非上場にし、ファン社長の体制を維持し、armと合併するという内容だ。AIに対して力を合わせることはコンセンサスが取れたが、話はまとまらなかったという。 「逃がした魚は大きかった」と悔しがった孫会長兼社長であるが、「もし神様がもう一度、選択のチャンスを与えてくれて、armか、NVIDIAのどちらか1社しか買えないと提示されても、1秒の迷いもなく、armを買う。それぐらいarmの将来を信じている」と断言した。 なお、Open AIのサム・アルトマンCEOにも1兆円の出資を提示したエピソードも披露。「サムが迷うほど、ぎりぎりのところまで話をしていた。だが、マイクロソフトから1兆円を出資してもらうことを決めた。技術力、販売力、資金力を持つマイクロソフトからの出資は、サムにとって正しい判断だと思うが、私は出資することを決めていただけに残念である。逃した魚はたくさんある」と、出席者を笑わせた。 ASIへの準備運動は済んだ 株主総会のプレゼンテーションの最後に、孫会長兼社長は、「ソフトバンクグループは、これまで多くのことをやってきた。これらは全部、ASIのための準備運動だった。壮大な使命と夢、強い思いに比べたら、今日の株価が上がった、下がったというのは小さい話である。この1年で、ソフトバンクグループの株主価値は、14兆円から34兆円へと、20兆円も増えた。だが、これも誤差の範囲である。ソフトバンクの株価があがるのかどうかが心配だというが、それは忘れましょう。孫正義が夢を見ているのならば、それを応援しようと思ってほしい」などと呼びかけ、拍手がわいた。 そして、ソフトバンクグループが創業以来目指しているのは「情報革命で人々を幸せに」することを改めて強調。「ソフトバンクは、本業をコロコロ変えると言われるが、本業を変えたつもりは一度もない。唯一最大の本業は、『情報革命で人々を幸せに』することである。そのために手段を進化させてきた。新たなテクノロジーが生まれるのだから、手段は進化させるべきである。進化したくない人の物差しで見て、ソフトバンクを批判しているに過ぎない。これからのソフトバンクは、ASIを実現しながら、人類の圧倒的な進化に貢献したい」と述べ、ASIの実現は、ソフトバンクグループが目指す「情報革命で人々を幸せに」するという本業に合致する、新たな手段だと位置づけた。 2024年の株主総会は、孫会長兼社長の次の大きな挑戦を宣言する場になった。 文● 大河原克行 編集●ASCII