初著書『巻き込む力がヒットを作る “想い”で動かす仕事術』を上梓した村瀬健プロデューサー

SNSでも注目を集めたドラマ『いちばんすきな花』をはじめ、『silent』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(いずれもフジテレビ系)や映画『帝一の國』など数々のヒット作を生み出してきた村瀬健さん。ドラマ・映画プロデューサーとして第一線を走り続ける村瀬さんの初の書籍『巻き込む力がヒットを作る "想い"で動かす仕事術』が2023年12月4日に発売され、書籍もヒットを飛ばしている。仕事に情熱を注ぎ込み、人々の胸に刺さる作品を作り続けてきた著者に“仕事に対する向き合い方”について語ってもらった。 ■僕個人の“想い”をベースにして仕事に向き合う 【写真】ドラマ「いちばんすきな花」の制作について語る村瀬健プロデューサー ――本が発売になって、周囲からの反応などありましたか？ 【村瀬健】さまざまなところからリアクションがあって、いわゆるエンタメ業界ではない、普通のビジネスマンの友人たちからも「この本はすごく参考になる」と感想をもらってます。仕事への取り組み方や部下のまとめ方といった部分で、僕の仕事のスタイルが参考になったみたいで、そう言ってもらえるのは素直にうれしいですね。 ――ドラマ制作にまつわるエンタメ寄りのエピソードも盛り込みつつ、“仕事”というテーマについてもすごく熱く語っている印象を受けました。 【村瀬健】この本を執筆したことで、改めて自分と向き合った気がしています。過去の仕事を振り返ったり、仕事に対する向き合い方を再確認したり、この書籍のおかげであらためて自己分析できたというか。その結果わかったのは、プロデューサー・村瀬健と人間・村瀬健にはあまり差異がない、ということです。仕事の自分とプライベートの自分はもっと線引きされていると思っていたんだけど、意外なほどに重なっていた。だからこそ、僕個人の“想い”をベースにして仕事に向き合うことができているのだと思います。 ――それが書籍のタイトルにもなっている「“想い”で動かす仕事術」ということですね。 ■ドラマプロデューサーは個人商店である ――『silent』などヒットドラマの制作秘話など、村瀬さんのプロデュース術も本の中で明かされていますね。 【村瀬健】プロデュース術やノウハウというより「僕はこうやってます」という事例を集めたもの、かもしれません。ドラマプロデューサーの仕事って「これはこうやるといいよ」と教えられるようなものではないんですよね。僕は、ドラマプロデューサーは個人商店だと思っています。それぞれのプロデューサーが、みんなそれぞれ自分のやり方でやっている。だから、プロデューサーは自分自身の人間性や“想い”で勝負するしかない、というふうに感じています。仮に僕の下で働いている部下たちが僕のやり方をまねしたとしてもうまくいかない可能性が高い。それは能力うんぬんではなく、人が変わればやり方も変わる、というだけの話です。 【村瀬健】それでも、僕から盗めるものを盗んで、それを部下や後輩たちが自分のものにしていくのだろう、と思っています。20代や30代の僕も、先輩の仕事ぶりを見ながら盗んできたので。いい部分は自分のものにして、悪い部分は反面教師にする。僕の先輩たちは誰も「村瀬、こうやるんだぞ」なんて教えてくれなかったし、今の僕の部下たちにも僕のやり方を見せるだけでいい。というか、見せることでしか教えられない。そう思っています。 【村瀬健】今、僕の下についているAP(アシスタントプロデューサー)は、ドラマの編集作業や音打ち(映像に音楽を入れる工程)には必ず参加しています。ドラマの制作現場は想像を絶するほど忙しいので、きっと本当は自分の仕事をこなすだけでそんな余裕なんてないはずなんですけど、「村瀬さんのやっていることを間近で見たいから全部参加します。時間は自分で作るので必ず声を掛けてください」と言っています。ゆくゆくは彼も独り立ちすると思うんですけど、彼にクリエイターとしての才能があるかどうかはまだ今の時点ではわかりませんが、少なくとも、間近で見て学ぼうとする彼の“想い”はしっかりと伝わってきています。 ■インプットを増やしていかないと次のアイデアは生まれない ――一緒に仕事をする部下や後輩に伝えていることはありますか？ 【村瀬健】いつも言っているのは「オンエアを見るようにしてね」ということですね。つまり完成形を見るように、と。自分たちが作っているドラマのオンエアを見るのは当然といえば当然なんですが、先ほども話に出たようにドラマのスタッフはとにかく忙しいから、うっかり見逃してしまうこともあるんですよね。僕自身も助監督のころは忙しくてオンエアを見ることができない日がありました。でも、オンエアを見ないと「自分が何をやっているのか」「自分が何を作っているのか」という基本的なことがわからなくなってしまうんです。録画でもTVerでも何でもいいからとにかく出来上がった作品を見ることによって、仕事の手応えとかフィードバックとか、そういったものを少しでも感じられるはずです。 【村瀬健】もうひとつ付け加えると、自分たちが作ったドラマだけでなく「たくさんの作品を見る」ということも大事、と常々言っています。これはクリエイティブな領域で仕事をするうえでは絶対に必要なこと。見るのが億劫だと感じる人は、はっきり言ってドラマ制作には向いていないと思います。これはきっと、違うジャンルでも同じでしょう。同業者やライバルの作品や商品を見たり聞いたりするのが億劫な人は、よほどの天才でない限り成功できないと僕は思っています。 【村瀬健】自分たちが作ったドラマのオンエアを見ることも、ほかの作品を見ることも、つまりはインプットを増やすということなんです。そういう意味では、「僕の仕事ぶりを見て盗む」こともインプットのひとつと言えるかも知れません。 【村瀬健】今回の本の内容にも通じる部分ですが、僕自身は天才じゃないから、ドラマのアイデアがポンポン出てくるわけではないし、インプットを増やしていかないと次のアイデアは生まれない、と確信しています。だからこそ、後輩たちにも「オンエアを見る」「たくさんの作品を見る」「僕の仕事ぶりを見て盗む」ことの重要性が伝わるといいなと思います。そういったインプットの積み重ねから得られるものはきっとあるはずです。 取材・文=山岸南美、撮影=後藤利江