じつに「サルらしい顔」になってきた暁新世の霊長類…それでも「空白の2000万年間」に、横たわる「ヒト直系祖先の謎」
長い長い進化の中で、私たちの祖先は、何を得て、何を失い、何と別れてきたのかーー 約46億年と言われる地球の歴史において、生命が誕生は、遅くとも約39億5000万年前と言われています。そして、最初の人類が登場するのは、約700万年前。長い地球の歴史から見れば、“ごく最近”です。 【画像】霊長類分布の謎…南米で発見されたサルは「どうやって大西洋を渡った」のか しかし、そのホモ・サピエンスも、突如として誕生したわけではありません。初期生命から現在へと連綿と続く進化の果てに、生まれたのです。私たち「ホモ・サピエンス」という一つの種に絞って、その歴史をたどってみたら、どのような道程が見えてくるでしょうか。そんな道のりを、【70の道標(みちしるべ)】に注目して紡いだ、壮大な物語がです。 この『サピエンス前史』から、70の道標から、とくに注目したい「読みどころ」をご紹介していきましょう。今回は、サルらしい顔を印象付ける鼻の変化、そして安定した視野を獲得した眼窩後壁の獲得について解説します。 *本記事は、『サピエンス前史 脊椎動物から人類に至る5億年の物語』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。 **記事中にある「○番目の特徴」は、地球上に脊椎動物が登場してから、ホモ・サピエンスに至るまでに獲得された70の特徴の順序を示したものです。『サピエンス前史』を通してお読みいただくと、その道程がより詳しくご理解いただけます。
真っ直ぐな鼻をした直鼻猿類
曲鼻猿類と直鼻猿類。このグループ名は、漢字そのまま、鼻の構造のちがいを指している。すなわち、曲鼻猿類では鼻の内部が曲がっており、“ヒトに至る系譜”を内包する直鼻猿類では鼻の内部が真っ直ぐだ(サピエンスに至る道標としての特徴は47番目にあたる)。 そして、曲鼻猿類と分かれた直鼻猿類は、さらに二つのグループに分かれることになった。 「メガネザル類」と“ヒトに至る系譜”である。 最古級のメガネザル類の一つとして、中国科学院のニイたちが中国に分布する約5500万年前ーー始新世初頭の地層から発見・報告した「アーキセブス(Archicebus)」がいる。最古級のメガネザル類であると同時に、直鼻猿類としても最古級の存在だ。また、メガネザル類としては、最初期の種の一つでもあるという。 ニイたちの分析によると、アーキセブスにはオモミス類と共通する特徴がみられるという。こうした点は、オモミス類が直鼻猿類の祖先であることを示す証拠になり得るとされている。 アーキセブスの生息していた約5500万年前の時点で、メガネザル類と“ヒトに至る系譜”は袂を分かっていたという点だ。暁新世の開幕から約1100万年ほどの時間で物語はここに至っていた。 あいも変わらず、進化は急速に進んでいたのである。 さて、実は、ここまでみてきたすべての動物たちの頭骨には、共通する特徴があった。 「眼窩」である。