富士急が買収「西武の遊覧船」小田急にどう対抗? 2人の「人気鉄道デザイナー」の作品が芦ノ湖で競演
そしてできあがったコンセプトが「芦ノ湖に浮かぶ緑の公園」である。船の甲板を緑あふれる公園にするという大胆なアイデア。これなら海賊船との差別化も図ることができる。 ■甲板には天然の芝生が 甲板には芝生を育成し、船尾には蔦を生やした。普通の人が思い浮かべる遊覧船のイメージとは明らかに異なる驚きのコンセプトだ。それだけに、実現までには紆余曲折があった。芝生については天然芝と人工芝のどちらを採用するか。天然芝は手入れの手間がかかるし、人工芝は紫外線による劣化でダメージを受けると、繊維が雨で流れたり風で飛ばされたりして湖に流れ出てしまう。
富士急側と議論を重ねたが結論がなかなか出なかったある日、川西氏が堀内光一郎社長と食事する機会があった。「そらかぜのプロジェクトは進んでいますか」と尋ねる堀内社長に、川西氏は「大丈夫です」と太鼓判を押した後、「1点だけ」と続けた。 「人工芝の繊維が湖に流れてしまうのは避けるべきです。地域のみなさんは、富士急さんを見ていますよ」 堀内社長もこの考えに賛同した。そらかぜを通じて富士急は自然を大切にする会社だというメッセージを発信できる。
早朝には、乗務員たちが芝や蔦に水を撒いている様子を見ることができる。通常の船ではありえない光景。これが乗客をわくわくさせる。「富士急には遊園地の精神がある。それは客の感動なしに会社の成長はないということ。手間がかかることはやらないという会社ではない」と川西氏は話す。 こうして完成したそらかぜが今年2月に就航した。客室内は、靴を脱いで大きな窓越しに操舵室を見ることができるキッズスペースや畳を敷いた小上がりスペース、ハンギングチェア、赤富士をイメージしたソファーなどさまざまな席を配置した。間取りをゆったりと取った分、定員は700人から550人へと変更された。
船外は3階デッキには天然芝を敷き詰めたエリアだけでなく、ブランコがあり、4階デッキには玉砂利デザインの飛び石などが配置されている。まさに「湖に浮かぶ緑の公園」である。 ■箱根エリアへさらなる投資は? 外観は赤い水引風のラインが入っている程度で、あまり手を加えていない。「芦ノ湖には船のペンキ1滴もこぼすことは許されない」と川西氏。せっかくのリニューアルなのだから外観を大胆に変えてもよかったのだろうが、川西氏と富士急は自然保護を優先した。