「至福」のレストラン列車 シンガポールとの異色コラボの狙いとは…
列車が西武秩父を発車すると、「ご利用くださいましてありがとうございます」と聞き覚えのある声が車内に響いた。私も審査員を務めている優れた鉄道旅行を表彰する賞「鉄旅オブザイヤー」で、お笑いコンビ「ダーリンハニー」の吉川正洋さんとともに司会をしている鉄道好きのアナウンサー、久野知美さんの自動放送だ。「沿線の景色の移ろいと、極上の料理を味わいながら特別で優雅な時間をどうぞお楽しみください」という久野さんの呼びかけに、「はい、そうします!」と心の中で叫んだ。 シンガポールとのコラボはブランチ、ディナーの両コースが用意され、西武鉄道によると「2024年12月下旬時点でブランチコースは平均して9割以上のご予約をいただいております」と出足好調だ。コラボを組むことにしたきっかけを同乗していた関係者に尋ねた。 西武鉄道の堤広利スマイル&スマイル室長は「シンガポール政府観光局は『予想外の体験。シンガポール』をブランドキャンペーンにしており、われわれ『52席の至福』は新しい旅行スタイルの提供をコンセプトにずっとしてきている」ことに共通項があると指摘。シンガポール政府観光局のセリーヌ・タン北アジア局長は「『52席の至福』の乗客は旅行と食事の両方に関心があり、私たちのターゲットと重なる」と応じた。
23年にシンガポールを訪れた日本人旅行者は約43万2600人と、新型コロナウイルス禍前の半分弱にとどまった。タン氏は24年に入ってからは「力強く回復しているものの、為替の円安傾向などが逆風となっている」とし、「52席の至福」でテーマに取り上げてもらうことで「日本の皆さんにシンガポール料理を楽しんでもらい、シンガポールの魅力を理解してもらい、次の旅行先にシンガポールを選んでほしい」との狙いを明かした。 25年1月~3月に提供される料理は、グルメ本「ミシュランガイド東京」で一つ星を獲得したレストラン「ノル」のディレクター、野田達也氏が監修。ブランチコースでは「至福のシンガポールチキンライス」、ディナーコースでは「イチローズモルト薫る武州牛のバクテー」などが用意される。 不思議なのは異国情緒があふれる料理に舌鼓を打っていると、見慣れたはずの東京近郊の住宅街の景色まで「別世界」のように映ることだ。
約2時間半後に西武新宿駅に到着後、「本場・シンガポールでこんな料理を味わいたい」としみじみと思った。これこそ、一見すると異色に思えたコラボがもくろみ通りになっている証拠だろう。 ☆共同通信・大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)。「52席の至福」は、池袋または新宿発の西武秩父行きブランチコースが1人当たり1万5千円、西武秩父発の池袋または新宿行きディナーコースが1万8千円。ともに西武鉄道の1日フリーきっぷとおみやげが用意されています。