「足立区のたけし」と「世界の北野」… “ビートたけし/北野武”が操り、心を掴む「振り子の法則」
11月23日に公開された北野武監督の最新作『首』。この作品は、日本映画界のレジェンド黒澤明監督をして 【ぞっこん写真】ビートたけし 〝黒木瞳〟似の18歳年下「再婚妻」素顔 「北野くんがこれを撮れば『七人の侍』と並ぶ傑作が生まれるはず」 と言わしめた構想30年の超大作である。 「今作は当初、秀吉(ビートたけし)の備中高松城攻めと本能寺の変を背景に、武将の“首”を巡る雑兵たちの戦いを描いた物語でした。ところがいざ完成してみると成り上がるために“首”を求めて彷徨う元百姓・茂助(中村獅童)のロードムービーと、信長(加瀬亮)の跡目を狙う武将たちのバイオレンスの両面を併せ持つ、まさに北野映画の集大成。今作に賭ける北野監督の熱い想いが感じられます」(ワイドショー関係者) 映画監督・北野武は、 「映画は100年ちょっとの歴史の中であまり変化していないけれど、おいらは絵画の世界で写実的な絵が抽象画になったり、キュビズム(前衛美術運動)が生まれたように、映画もそっちの方向に転がっていってもいいんじゃないかなと思っていて、映画はもっともっと進化しなきゃおかしい」 「既存の常識をぶっ壊して”凄い映画”を作りたい」 と映画への思いを、力強く語っている。 故・黒澤明監督から日本映画を託された”映画界の申し子”が口にする映画への情熱。しかし並大抵の情熱では、これを成し遂げることはできない。では、どうやってそのエネルギーを生み出しているのか。それこそが、ビートたけしが度々口にする「振り子の法則」にある。 「“世界の北野”として芸術家・北野武が輝くためには、片一方で“足立区のたけし”が、芸人として時にはパンツ一枚ではっちゃけないといけない。つまり、“世界の北野”が大きく振り子を右に振るためには、“足立区のたけし”も大きく左に振り子を振らなければならない。これが、たけしさんのいう『振り子の法則』です」(制作会社プロデューサー) 「振り子の法則」については、12月3日にビートたけしが番組『まつもtoなかい』(フジテレビ系)に出演した際、MCを務める中居正広も 「30年くらい前、1回だけ(たけしと)お食事に行った事があった」 と前置きした上で、 「中居くん、エンタメは振り子だから」 と言われ、その後SMAPのリーダーとしてこの言葉を頭の片隅に置いてきたと明かしている。 だが「振り子」は、“世界の北野”と“足立区のたけし”の間だけで振れているわけではない。70代に突入したビートたけしは、様々なフェイズで鮮やかに「振り子」を振ってみせる。 「70歳の時、たけしさんは初めての純愛小説『アナログ』を発表。この物語は手作り模型や手描きのイラストにこだわるデザイナーの悟と、携帯を持たない謎めいた女性・みゆきが喫茶店『ピアノ』で偶然出会う。 連絡先も交換せずに“毎週木曜日に同じ場所で会う”約束をして、2人は少しずつ関係を深めていくも、ある日突然、みゆきは『ピアノ』に現れなくなる。この小説は今までのたけしさんにはない、大人のラブストーリー。二宮和也と波瑠によって映画化され、興行収入10億円を超えるヒット作となりました」(前出・ワイドショー関係者) 映画『その男凶暴につき』で監督デビューを果たして以来、『アウトレイジ』シリーズなどバイオレンスには定評のある“世界の北野”が、真逆とも言える純愛小説を描く。そこにこそ、「振り子の法則」が見事に活かされている。 しかし、この映画を観た観客はこの映画の中にも「振り子の法則」が隠れていることに気がつく。 「物語が進むにつれ消息を絶ったみゆきが、事故に遭っていた事が判明。脳障害と下半身麻痺が残り、意思の疎通がはかれないといった事実を突きつけられる。現実とは、こんなにも理不尽で不条理なものなのか。 しかしこの喪失感こそ、北野作品の真骨頂。悟は会社を辞めフリーランスのデザイナーとなり、車椅子に乗ったみゆきと海辺を散歩することを生きがいとする。理不尽で不条理な現実を愛の力で跳ね返す。一見100%の純愛物語に見えるが、騙されてはいけません」(制作会社プロデューサー) なぜなら悲劇に真っ向から立ち向かっていく二宮演じる悟。その姿こそ、北野監督がこれまで描いてきたバイオレンス映画の主人公そのもの。 ここに来て観客は、映画の中にも”振り子の法則”が働いていることに気付かされる。 精神性に基づくなら、人生を捨てるような決断をすることもまた正義。そこには無謀とも言える行動を起こし、みずからの正義を貫いてきたビートたけしの矜持が見え隠れしているようにもみえる。 「ピカソの絵なんか見ちゃうと、風景画や写実的な絵の何がいいのか?って思うよね。それと同じ感覚になるような映画を作りたいという思いが、ずっと続いているんだよ」 日本映画の未来を託された北野武。彼が「振り子の法則」を操ってどんな次回作を生み出すのか。それはもはや、神のみぞ知る世界なのかもしれない……。 文:島 右近(放送作家・映像プロデューサー) バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』(竹書房新書)を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版中
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