川口春奈×松下洸平らが切り取った2024年の今 『9ボーダー』は数年後も振り返りたい一作に
川口春奈が演じたことにより、七苗が応援したいと思える主人公に
三姉妹の中で恋も仕事も最も動きがあったのは七苗だった。これまで築き上げたキャリアを捨てて、久しぶりに恋をした。そういえば『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系)も、主人公のまこと(生見愛瑠)がある日突然会社を辞めたことから物語が始まっていた。働き盛りの20~30代女性が、大手企業でのキャリアアップより、自分の身近にあるものに目を向けたドラマが同時期に放送されたのも、不思議なめぐり合わせだなぁと思う。 そんな七苗の物語における最大のトピックは「なりふり構わず欲しいものに手を伸ばせた」ことだろう。六月の言う通り、人間は年齢を重ねるにつれて、傷つくことを回避するのが上手くなる。社会的地位が高くなるにつれて、それに見合った自分のイメージを守りたくなってしまうものだ。思い返せば、第1話の七苗は、恋人がいないことを言い出せず(元彼に刺激されたせいでもあるが)六月や八海にさえ、彼氏っぽい存在がいると嘘をついていた。 第9話では、その七苗がただコウタロウに会いたくて、後先考えずに神戸行きのバスに乗った。六月の言葉を借りるならば「傷ついても、恥をかいても、追いかけるって決めた」のだ。序盤の七苗からは想像できない姿だったが、そこに至るまでの積み重ねがきちんと描かれていたし、なによりも川口が演じたことにより、七苗が応援したいと思える主人公になっていた。 歯痒さを感じるところはありつつも、2024年の今を描いたテレビドラマとしては、欠かせない一作になっていたように思う。自分が再び9ボーダーに近づいた際、もがきながらも幸せを掴み取ろうとした三姉妹の姿が浮かぶ瞬間があるのかも。だからこそ、七苗に証明してほしい。傷ついて恥をかいた先には、必ずハッピーエンドが待っているということを。
明日菜子