島旅の魅力、ラジオの魅力【山本浩之アナコラム】
【山本浩之のぴかッと金曜日】 仕事柄、ロケという名の旅をすることが多い。一年で43の都道府県を旅したこともあった。国内のみならず海外も。北米ホワイトホースの夜空に広がるオーロラ、モンゴルの地平線にかかる180度の虹の橋、夕日に染まるアンコールワット、数々の風景をこの目に焼き付けてきた。 印象には残っているが、振り返ればどこも時間に追われる旅だった。長時間しんどい思いをしてやっとたどり着いても、必要なシーンを撮れば余韻に浸る間もなくすぐに移動。仕事なので当たり前だが、滞在時間が短すぎるのでテレビの旅は味気ないことが多い。 朝のラジオ『ヤマヒロのぴかッとモーニング』の放送中に電話で話したのが縁で、今週、岡山県の真鍋島を旅する機会を得た。17年前、神戸から移住してきた近藤真一郎さん、民子さん夫妻に会うのが目的である。 真鍋島は瀬戸内海に浮かぶ笠岡諸島の中にあり、周囲7・5キロ、人口180人、高齢化率70%を超える小さな島である。映画『瀬戸内少年野球団』『劇場版ラジエーションハウス』のロケ地に選ばれただけあって、昭和のノスタルジー満載だ。 潮の香りと陽光を体いっぱいに浴びて桟橋に降り立った一行をご夫妻が出迎えてくれた。不思議なもんだ。初対面という気がしない。ラジオリスナーとパーソナリティー、ただそれだけの関係なのに思わず『久しぶり!』と言ってしまいそうになった。彼らの人懐っこい笑顔がそう思わせるのかもしれないが、実はこれこそがラジオという媒体の特権なのだ。『テレビをご覧の皆さん、ラジオをお聴きのあなた』。アナウンサーの大先輩、角淳一さん(元MBS)が短い言葉で全てを表現したように、ラジオは不思議な糸でつながってる。 二人が経営する『モトエカフェ』でおいしいコーヒーをいただいた(この店のカレーとコーヒーとチーズケーキは本当においしい)後、島を案内してもらう。狭い路地が入りくんで迷路のようだ。道に迷ったら海を目指せばいいらしい。真っ昼間なのに物音ひとつしない。スタバはもちろん、コンビニも信号もない。自販機のカフェオレは売り切れ。欲しいものが買えないのになんだか笑けてくる。 無きゃ無いでいいやん。時おり吹き抜ける島風と、防波堤にたむろするたくさんの猫達。これだけ。これが真鍋島の日常だ。フランス人画家フロラン・シャヴエさんが発表した『Manabeshima』という色鉛筆画の作品を見て訪れる外国人もいるらしい。ゆったりとした時間を楽しみ、脳内にたまった不純物を洗い流して、翌朝この島から『ぴかモニ』を生放送。普段よりテンション高めだったかって!?そりゃそうだ。初めて、旅のついでに仕事をしたのだから。(元関西テレビアナウンサー) ◇山本浩之(やまもと・ひろゆき) 1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。