高倉健さんが「不器用」イメージ覆しタフな戦略家に 「四十七人の刺客」市川組のベテランが集結「映画誕生100周年」の大作
【奇数が当たる!? 集団時代劇の世界】 「四十七人の刺客」(1994年)は今年没後10年の名優・高倉健が、名監督市川崑と組んだ「映画誕生100周年」を記念した大作。 元禄14年3月、勅使饗応役の赤穂藩主・浅野内匠頭(橋爪淳)は、高家筆頭・吉良上野介(西村晃)に対して、江戸城柳の間で刃傷事件を起こす。内匠頭は即日切腹、吉良はおとがめなしという処断を聞いた浅野家筆頭家老・大石内蔵助(高倉)は、事件の原因究明がされず、主君の切腹が庭先での屈辱的なものだったことに疑念を持つ。その裏には上杉家家老・色部又四郎(中井貴一)と柳沢吉保(石坂浩二)の存在があった。「武士に対する礼節もない」と彼らのやり方に怒った大石は「吉良上野介を討ち、柳沢吉保の面目をたたき潰す!」と立ち上がる。 誰もが知る「忠臣蔵」だが、この作品には意外な要素も多い。たとえば大石は江戸市中に「吉良がワイロを要求」「赤穂浪士すわ討ち入り!?」といったウワサを自ら流す。さらに塩相場を操作。討ち入りの軍資金を調達する。対する吉良側も邸を濠や鹿砦、迷路まで完備の城塞のように大改築する。 「不器用」「孤高のヒーロー」イメージの高倉健もこの集団時代劇ではタフな戦略家であり、チームのリーダー。女性関係でも良妻賢母のりく(浅丘ルリ子)がいながら、おかる(宮沢りえ)ともいい仲になる。 キャストには金田一シリーズの石坂、「木枯し紋次郎」の中村敦夫(原惣右衛門)、井川比佐志(奥田孫大夫)、松村達雄(堀部弥兵衛)、山本學(吉田忠左衛門)、神山繁(小野寺十内)ら市川組のベテランが集結。冷たい顔をした中井貴一、暗い顔の吉良方剣豪小林平八郎役の石橋蓮司も印象に残る。 47人の装束はおなじみの浅葱色ではなく黒。真っ白な雪の中、全身黒の戦闘服のような装束ですっくと立った高倉健は「今宵、吉良を殺す!」と宣言する。この瞬間に彼らは志士ではなく「刺客」となった。「悪というなら悪に徹しよう」「全員斬って捨てろ!」そして上野介が事件の真相を語ろうとした瞬間に内蔵助が放った言葉に驚愕する。高倉健にとって最後の時代劇。 (時代劇研究家 ペリー萩野) 四十七人の刺客 1994年10月22日公開。市川崑監督。原作は池宮彰一郎の同名小説。池宮は池上金男名義で脚本にも参加している。