地下アイドルのドキュメント映画と思いきや、実は清々しい人間賛歌だった
◆「インスタントにチヤホヤしてもらえる」(まきちゃん)
──すごくおもしろいなと思ったのが、地下アイドル界というのは、今どきの「人生の縮図」なんだな、と。キラキラしてるようでいて、すごく人間くさい。むしろドロドロしてる。でも、みんながそこで必死に足掻いてるし、最後の拠り所にしている。 田辺「そうなんです。地下アイドルにスポットを当てつつも、社会全体が実はそうなっているという。コロナ禍になって、どうやって食いつないでいくか、生きていくかをみんなリアルに考えていくという」 まきちゃん「アイドルって『偶像』ってよく言うじゃないですか。だからこそ人間味というか、人の機微というのが現れやすいのは間違いなくありますね」 田辺「僕も改めて、なんで地下アイドルをウォッチしてるのか考えたら、会社や学校に行ったりしながら、レッスンして、ライブに出て、さらに金曜夜に車で東京に行って、土日の朝昼晩でライブして月曜の朝帰ってくる。そこまでしても、売れる可能性はひと握りの欠片。その欠片に賭けているモノはなんだろうって疑問だったり」 まきちゃん「なんか、洗脳じゃないですけど、これやってたら売れるんじゃないだろうかと、そういう気にさせられるなにかがあるんですよ。お客さんひとり増えただけでも、これを続けていたら売れるんじゃないだろうかって。東京遠征して土日で4本ライブして、疲れるのも気持ちよくなってくるんですよね」 ──出演している地下アイドルたちが「なぜ続けるのか?」を模索しているなか、印象に残ったのが、始発待ちアンダーグラウンドのムラタ・ヒナギクさんの言葉。「やるとなったら、続けていくものだと個人的には思っていた」と。それもまたひとつの真理だなと。 田辺「辞めるのも選択だし、信じて続けられている人たちがいるってね。そこにクローズアップした人、これまでいなかったですね」 ──好みのタイプだったからかもしれません(笑)。 まきちゃん「ハハハ(笑)。それも含めて、アイドルの魅力ですから」 ──まきちゃんは、なぜ地下アイドルを続けているのですか? まきちゃん「もう10年くらいやっているので、いろんなところでって聞かれるんですけど、『ただ辞める勇気がなかった』という」 ──メンバーの脱退は数知れず、辞めるチャンスはいっぱいあったようですが。 まきちゃん「そうなんですけど、ホントに辞める勇気がなくて。アイドルであること、メンバーがいることでかなり下駄履かせてもらってる感覚がずっとあって。今くぴぽを失ったらどう生きていったらいいか想像がつかない」 ──それこそ、金曜夜に東京遠征して、ライブして朝帰ってくるなんて大変じゃないですか? 会社員の方が全然楽だと思いますが。 まきちゃん「勝手なイメージですけど、社会人は決められた時間に起きて、出勤するってスゴいなと。別に地下アイドルも朝9時からリハがあれば来るんですけど、社会人に対して幻想とハードルがありますね」 ──劇中で、少女模型の闇雲やみさん(2023年2月卒業)が「働くのもイヤ、金持ちと結婚したい」と言ってて。 田辺「20歳で死のうと思ってた、という子ですね」 ──金持ちと結婚して楽をしたいのは、理解できるんです。なのに、こんなハードな地下アイドル活動ができるんだと。そこには、僕らの知らない魅力、もはや麻薬に近いものがあるのかなと。 まきちゃん「やっぱり、インスタントにチヤホヤしてもらえるからでしょうね。地下アイドルのライブって、かなりお客さんに依存してるんですね。ファンの声がないと成り立たない。目の前の快楽、というのはあると思います。それを浴びると、ほんのひと握りしか売れないと分かっているはずなのに、数人のファンを前にしたら勘違いさせてくれるんですよね」