「原宿の竹下通りを3往復したことも…」念願の役者になって10周年の前田隆太朗が語る俳優業の魅力やファンへの思い
舞台「弱虫ペダル」「鬼滅の刃」やミュージカル『テニス王子様』など、数々の人気作への出演経験を持つ前田隆太朗。デビュー10周年を迎える彼に、今あらためて思う俳優業への思いや、8月から上演されるミュージカル『刀剣乱舞』和泉守兼定 堀川国広 山姥切国広 参騎出陣 ~八百八町膝栗毛~への意気込みについて語ってもらった。 【写真】目力が印象的な前田隆太朗 ■念願の初舞台は恥を払拭する戦いだった ――俳優を志したきっかけから教えてください。 中学時代に実家でドラマを見ていて、役者さんが泣いているシーンがあったんです。そのときにふと、なんでこの人は泣いているんだろうとか、演技ってどんなものなんだろうと興味が湧いて、役者になってみたいと思いました。 高校卒業までは地元にいてほしいと家族から言われていたので、卒業したらすぐに上京して俳優活動を始めようと決めていたんです。大学進学も親との約束だったので、大学に通いながら、知り合いの紹介で芸能事務所に入りました。 とにかく芸能界に入りたくて、事務所に入る前に原宿の竹下通りを3往復してみたこともあるんですけど、一切スカウトされませんでした(笑)。 ――地元にいるときは、もどかしい思いもあったのでは? 高校を卒業したら、と割り切っていたので、もどかしいという気持ちはなかったです。高校受験のときも、すでに俳優になると決めていたから、勉強しなくても入れる高校でいいやって思っていたんですよ。 そうしたら先生から「勉強するしんどさは覚えとけ」と、僕にとっては偏差値高めの学校を強制的に受験することになって(笑)。無事に受かったし、今となってはいい経験でした。 ――それから念願の東京に来て、初舞台の思い出は? 演劇に力を入れている大学に行って、芸能事務所が関わるような舞台があったんです。1年生のときに出演することがかなって、それが初舞台でした。 でも演技なんて右も左もわからなくて、正直なことを言うと恥との戦いだった思い出です。役者になりたいってずっと思っていたのに、いざ人前で大きな声を出して演技をするというのは、こんなに恥ずかしいんだなって…。まずは恥を払拭することが課題でした。 ――そして今、俳優活動スタートから10年近く経ちました。 役者を始めた頃は、このままずっと役者を続けていくのか、飽きてしまうんじゃないかって不安になったりもしましたけど、歳を重ねるごとにどんどん新しいものが見えてきて、面白いなって思えるようになりましたね。 俳優業の面白いところは、作品の分だけいろんな役があって、引き出しが増えていくこと。やればやるほど奥が深いし、難しいし、いろんなことが見えてきました。 それと先日、大阪公演から帰る新幹線で、何かの追っかけをしているんだろうなと思う女性を見かける機会があって。大きなスーツケースを持っていて、移動も大変そうで。きっと僕を応援してくれている皆さんも、こうやって来てくれているんだって思ったんです。 たくさんの労力をかけて来てくださっているんだから、最高のものを見せたいなって。観に来てくれる人がいないと成り立たない仕事だからこそ、恥ずかしいだなんて言ってられないし、全力でやっていきたいですね。 ■客席が再び満員になったときに感涙した思い出 ――2.5次元作品で数々の人気のキャラクターを演じています。役に対するプレッシャーみたいなものはありますか? 毎回プレッシャーを感じないかもしれないです。もちろん原作へのリスペクトはありますけど、ただ、僕たちがやるのはあくまでも演劇で、作品へのアプローチの仕方が違うし、観に来てくれる人のために、より面白くできるようにいろんなことを考えたいし、プレッシャーを感じてもあまりいいものにならないなって思っているんです。 ある程度の緊張感はもちろん持ちますけど、プレッシャーで頑張らなきゃって必死になりすぎるのは、もったいない気がするんです。できるって思ってた方がいいなって。できないって思ってしまったら成し遂げられないことが多いんじゃないかと考えてます。 落ち込むこともあるし、ビビりだし、プレッシャーにも弱いし、でもそれを出しちゃうと自分に負けちゃう。だから、負けないために「できるできるできる」って思うようにしてます。 ――役はオーディションで決まることも多いですが、それも毎回自信を持ってのぞまれているのでしょうか。 オーディションに受かるか受からないか、手応えでわかるんですよ。手応えがあったのに受からなかったら、他の役柄とのバランスなのかなって思いますし。 オーディション中も自信を持って臨んでいるうえに、自分がいいなと思える演技や歌唱ができたら、さらに相乗効果でよく見えるのかもしれません。歌も芝居も自分が一番よかったなって思えたら、絶対に受かっていますね。 特に舞台『鬼滅の刃』のときは、オーディションの時点でハマったなって思いました。落ちるときもわかるんですよ。あの人のほうがキャラクターにハマってたな、って。 ――では、俳優を続けている上での一番のモチベーションは? 自分を見てもらうのがうれしいですし、カーテンコールでのお客さんの拍手も毎回感極まります。 コロナ禍が緩和されて、客席が満員になったときの景色は特に忘れられないです。ミュージカル『新テニスの王子様』Revolution Live 2022のとき、パンパンに入ったお客さんを見て、スタッフと「よかったね」って喋ってたら、なんか泣いちゃって…。 それに、これからどんな役を演じられるんだろうっていうワクワク感も、モチベーションが続いているひとつの理由だと思います。 ――俳優同士で意見交換をすることもありますか? たまに話すのは、やりたい役の話よりも自分のお芝居をもっとよくするための、人間としてのあり方みたいなところですね。もっといろんな人の話を聞いて、相手の気持ちを理解することが、演技のバリエーションにつながるんじゃないかとか。 ――俳優仲間で特に仲がいい人はいますか? 牧島輝、佐藤流司は仲良しですし、なんか俳優ってみんな変なんですよね。見られる仕事をしているからなのか、やたらオープンと言うか(笑)。一緒にいて面白いです。 僕自身も、スタッフさんから「距離が近いところがちょっと変」って言われます(笑)。わりと誰とでも仲良くなれるタイプで、友達は多いですね。 ■エネルギーを与え続ける俳優になりたい ――8月から、ミュージカル『刀剣乱舞』和泉守兼定 堀川国広 山姥切国広 参騎出陣 ~八百八町膝栗毛~が上演されます。 時代劇に出演するのは、この作品がほぼ初めてなんです。稽古が始まっているんですけど、時代を舞台上で表現するためにみんなで努力する作業はすごく面白いです。 同じ事務所の木下政治さんをはじめ、時代劇を経験している先輩方に着物の着方から教えてもらったりして、時代劇の現場をいちから学ぶことを楽しみながら作品を作っています。 ――時代劇で特に難しいなと感じる部分はありますか? やっぱり、その時代を生きた人を表現することですね。大変だからこそ、みんなでつくっていく過程がすごくいいなとも思いますし、難しさも痛感します。 本当に細かいところから全部つくるんです。自分の役柄はこんな立ち姿かな、猫背じゃないかな…とか、一個一個作る作業に苦心しています。 ――最後に、俳優として目指す姿など今後の展望を聞かせてください。 いろんな作品にどんどん挑戦していきたいですし、観に来てくれる方が楽しいなとか、日々の疲れが取れるなとか、そう思っていただける舞台に出演し続けたいです。 観ている人が笑ったり泣いたりできて、観客席に感情が生で伝わるのが舞台のよさだと思っているので、舞台から伝わるエネルギーを皆さんに還元したい。 昔の自分は若くて力強いエネルギーだけでしたが、年齢を重ねるにつれてまた違ったエネルギーになるかもしれないですよね。とにかくいろんなエネルギーを、観てくださる方にずっと与え続けられる俳優になりたいです。 ◆取材・文=イワイユウ 撮影=八木英里奈 スタイリスト=水島潤 ヘア&メーク=藤澤和紀