(ハリウッド・メディア通信)アカデミー賞科学技術賞2024 ( The Academy’s Scientific and Technical Awards 2024 )のはなし
アカデミー科学技術賞の歴史
「シネマ・アートの進化は、その映画のトリックを可能にした発明家やエンジニアなくしては成り立たなかった。」と現アカデミー賞代表のジャネット・ヤングがアカデミー技術効果賞のオープニングで語ったように、ハリウッド映画の撮影には常に、科学工学の発展がともなってきた。 今年のアカデミー科学技術賞の授賞式が行われたアカデミー映画博物館でも、映画制作の芸術や科学という創造の担い手と、その道具を展示している。VFX関連では、『ジョーズ』(1975) の実物大サメの模型や、『エイリアン』(1979) のヘッドピースほか、VFX映画ファンにはたまらないキャラクターの模型を展示。さらには、映画への軌跡として、映写映画にいたるまでの万華鏡やパラパラ漫画など、17世紀にまで遡る故リチャード・バルザーのコレクションは、人々が光や視覚効果を使って、初期のアニメーション、映画へと進化の歴史が分かるようになっている。 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)で、デロリアンが空を飛ぶシーンのワイヤー・リグ・モデル・サポート技術を開発したタッド・クシャノウスキー氏もアカデミー科学技術賞を受賞した1人。英国ジム・ヘンソン・クリーチャーショップで70年代後半からアニマトロニックス技術に関わり、アニマトロニック・パペットコントロール・システムを開発。ケーブルで動かしていたものをラジオコントロールに切り替え、どんなサイズのパペットでも、リアルに動かせるように進化させた。 さらに、実写映画『007』シリーズなどで華やいだ80年代のパインウッド・スタジオで、米リチャード・ドナー監督の『スーパーマン』(1978) のエフェクトチームとして参加。人間が空を飛ぶというリアルな映像合成のキーパーソンとして参加し、86年には、ILMに拠点を移動。ジョージ・ルーカス,スティーブン・スピルバーグ、ジェームズ・キャメロンなど、多くの監督作品にかかわり、日本パナソニックのMCXマスコットのロボット、スパーキーの製作も担当し、ジョージ・ルーカスと日本を訪れたり、ローランド・エメリッヒ版『GODZILLA』(1998)のタンク制作にも従事した。 1988年、アカデミー技術効果賞を受賞したワイヤー・リグ・モデル・サポート技術は、ブルースクリーンの前でモデルを撮影し、ポスプロでワイヤーの部分を消すことを可能にし、VFX映画製作の予算の削減に大きく貢献したのだという。 先月、VES賞(ビジュアル・エフェクツ・ソサエティ賞)という世界中のVFXアーティストの実写最優秀賞に輝いたのがギャレス・エドワーズ監督の『ザ・クリエイター/創始者』。前コラムでも紹介したが、監督のビジョンと、VFXスタッフで構築されたセンスのある特殊効果映像が、通常のスタジオ映画予算をかなり下回ったことは、業界でも大きく注目された。ギャレス監督のVFXチームと競うのがジェイムズ・ガン監督『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3』、クリストファー・マッカリー監督『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』、巨匠リドリー・スコット監督『ナポレオン』チームと、山崎貴監督『ゴジラ-1.0』の白組スタッフ。VFXスーパーバイザーの渋谷紀世子さん、高橋正紀さん、そして監督も唸る25歳の若手 VFXデザイナー野島達司さんのノミネートに、70年前の日本製『ゴジラ』映画に触発 されたVFX裏方たちの声援も熱い。
文 / 宮国訪香子