巨大ポンプ車「大キリン」を無償提供 原発事故の危機的状況を救った中国企業 #知り続ける
東日本壊滅の危機…「(費用は)いくらでもいいから、持ってきて」
この時、最大の危機とされたのは核燃料プールだった。1号機には392体、2号機には615体、3号機には566体、そして4号機には1535体もの核燃料が高さ50メートルある原子炉建屋の最上階のプールの中に保管されていた。特に4号機の発熱量は大きく、14日の午前4時ごろのプールの温度は84℃にまで上昇していた。プールに注水することができなければ、3月下旬には水位が下がり燃料が露出する恐れがあった。水が干上がれば膨大な量の放射性物質が環境中に放出され、東日本に人が住めないほど汚染されると予測された。 3月17日から自衛隊はヘリによる上空からの注水を決行したが、プールにピンポイントに入れることはできなかった。東京消防庁による放水でなんとか状況の悪化を食い止めていたが、効果的な一手を打てない状況だった。 「水をいれるなら私たちの専門分野だ」 龍さんは、自身が販売代理店を務める中国の建設機械企業・三一重工(SANY)が高層ビルの建設などで使用される世界一長い62メートルのアームを持つコンクリートポンプ車を製造していたことを思い出す。すぐさま、東京電力に電話すると、担当者は興奮気味に即答した。 「もう(費用は)いくらでもいいから、持ってきてください、すぐに!」
日本に「販売」しない 会長の決断
龍さんは、この巨大ポンプ車を製造した三一重工の梁穏根会長に連絡を入れ、日本に運びたいと提案した。すると、梁会長の反応は予想を上回るものだった。 「(巨大ポンプ車を)日本に販売してはいけません。利益はいらない。寄付しましょう。こういう時はみんな助け合いです。技術的なサポートも提供しましょう」。 巨大ポンプ車の販売価格は約1億5000万円。すでにドイツの企業への販売が決まっていて、上海の港で出荷待ちの状態だった。ドイツ企業の快諾もあり、すぐに日本に向け出発した。しかし、大型機械の輸送は通常なら通関の手続きなどで数週間、場合によっては数ヶ月かかってしまう。