同郷の佐々木朗希に憧れ 仙台育英プロ注目左腕・仁田 センバツ
野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本の優勝に貢献した佐々木朗希投手(ロッテ)。彼に憧れるのが、第95回記念選抜高校野球大会に出場するプロ注目の左腕、仙台育英(宮城)の仁田陽翔(はると)投手(3年)だ。親同士の仲がよく、同郷の「ヒーロー」である佐々木投手に「出力とストレートを見てほしい」と語る。狙うのは聖地での夏春連覇だ。 仁田投手は昨夏の甲子園でも登板し、東北勢初優勝に貢献した。センバツでは投手陣の3本柱の一人として、史上5校目の甲子園夏春連覇を目指す。 マウンドでも学校でもポーカーフェースで、何を考えているのか分からない。だが、最速147キロの直球とスライダーには切れがあり、尾形樹人捕手(3年)も「球の強さが(3本柱の中で)抜けている」とうなずく。堅守が売りの仙台育英に、欠かすことのできない本格派左腕だ。 岩手県大船渡市出身で、2011年3月11日に東日本大震災を経験した。市内のスーパーで母・美千子さん(49)に抱きかかえられ、泣きながら避難した。月日は流れ、小学3年になると、地元の猪川野球クラブで軟式野球を始めたが、4学年上に佐々木投手がいた。進んだのも大船渡市立第一中学校で同じだった。佐々木投手が大船渡高に進んでも、活躍のうわさは耳に入ってきた。気づけば憧れの存在となっていた。 高校1年の正月休み、初めて直接会うことができた。親同士の仲がよかったこともあり、サインをもらいに実家を訪れた。既にプロ入りしていた佐々木投手が、玄関から出てきて驚いた。「まさか出てくると思っていなかったので、まったく準備していなかった。何も伝えられなかった」。ほとんど何も話せず、帰宅した。後悔はあるが、サインは宝物になった。お守りのように自室に飾り、「いつかは自分も」とモチベーションになった。 佐々木投手は「身長がすごく高くて、スラッとしているが筋肉質。体格がまるで違う」。だから、フォームなどをまねしたことはない。だが、精神面で大きく影響を受けたことがある。 昨年4月10日。佐々木投手がプロ野球史上16人目の完全試合を達成した。28年ぶりの快挙。プロ野球新記録となる13者連続を含む、計19奪三振の力投だった。その日は仙台育英も試合があり、リアルタイムで見たわけではないが、速報で知って歓喜した。ハイライト動画で見た佐々木投手の姿は「圧巻だった」。 1年春にベンチ入りしてから、主に中継ぎだった仁田投手だが、「自分も長いイニングを投げたい」と強く思った。先発投手への憧れは日に日に高まり、ついに昨秋、練習試合中に須江航監督に直訴した。 その後は「調子の波が激しい」という弱みと向き合った。近い距離での投げ込みやネットスロー、シャドーピッチングに時間を割き、理想のフォームを体にたたき込んだ。筋力トレーニングにも励んで下半身を中心に鍛え、直球の威力も磨いた。 今春のセンバツ。初戦の2回戦の慶応(神奈川)戦で先発を任された。しかし、直球とともに配球の軸となるスライダーが浮くなど制球が安定せず、二回途中で被安打1、3四死球で降板。雨で緩んだ足場が気になり「実力を発揮できなかった」と悔やんだ。 それでも、須江監督は「次も先発で行こう、って感じ。彼の持っているものはこんなもんじゃない」と信頼を置く。仁田投手も「最後まで諦めずに(次の投手に)つなぐ」と期待に応えるつもりだ。 仙台育英は大会第9日の28日、3回戦で龍谷大平安(京都)と対戦する。「夏春連覇の達成に貢献したい」。佐々木投手も活躍した今春、快投を披露せずに終わらせるわけにはいかない。【森野俊】