長谷川一夫のマネばかり〝雷サマ〟こと市川雷蔵が大きく飛躍 1961年「新源氏物語」森一生監督
【映画デビュー70年 市川雷蔵のきらめき】 今月27日から映画デビュー70年を迎えた市川雷蔵をしのんで「市川雷蔵映画祭~刹那のきらめき」を開催する。目玉はこの「新源氏物語」4K修復版である。 「新源氏物語」は第1回の直木賞作家である川口松太郎の原作小説で「週刊文春」に連載され、1962年に文藝春秋から単行本が発刊された。川口版は「川口源氏」と呼ばれている。 本作の監督を務めた森一生は「座頭市シリーズ」の勝新太郎を「不知火検校」で新しい魅力を引き出したと評価され、「忍びの者」シリーズやテレビドラマ「木枯し紋次郎」など時代劇に定評があった。 物語は複雑すぎて一筋縄では語れない。雷蔵演じる源氏をめぐり、女性が次々に現れるから目が回る。 とりあえず雷蔵を取り巻く女優陣から語ろう。まず寿美花代。藤壺と桐壺の二役。それというのは原作でもこのふたりがうり二つという設定だから。光源氏の生涯にわたる永遠の恋人。といっても現代を先取りしたような父の後妻とのただならぬ関係でもある。 次に中村玉緒は朧月夜の役。桐壺帝の右大臣の六番目の姫君として現れる。この朧月夜は源氏物語の中でも異色の艶やかで奔放な明るい女性として描かれていて珍しい。 そして若尾文子も葵の上でしっかり雷蔵にからんでいる。 源氏物語の時代は、いわばフリーセックス、よくいえば自由恋愛の時代。嫉妬に狂う女同士の策略が…。しかも上流社会のそれを赤裸々に描いた暴露小説なのだ。 大映は51年に「源氏物語」(吉川公三郎監督)を長谷川一夫主演で撮っている。雷蔵を第二の長谷川一夫に育てたいという思惑のあった大映は、57年の「朱雀門」(森一生監督)で若尾を皇女和宮に、雷蔵に有栖川宮熾仁親王を演じさせ、さらに同年の「源氏物語 浮舟」(衣笠貞之介監督)で長谷川を薫、雷蔵を匂宮で組ませている。これで雷蔵は完全にレールに乗った、あるいは乗らされた感がある。 55年の「新・平家物語」(溝口健二監督)で平清盛役を演じ、長谷川一夫のマネばかりとささやかれていた「雷サマ」はここで大きく飛躍したといわれている。この「新源氏物語」に大映もしてやったりとほくそ笑んだことだろう。