アニメ聖地を過疎化解決の糸口に―沼津市で『ラブライブ!』ファン向けに移住相談会「転職活動中です」取材で見えた自治体のあり方
急逝した市長の大功績
2016年10月に実施された沼津市長選挙で当選したのは、地元出身の大沼明穂氏である。大沼氏が沼津市長だった期間は、極めて短い。2018年3月、小脳出血で突如この世を去ってしまったからだ。 しかし、大沼氏は1年半にも満たない間に沼津市を「アニメのまち」に変えた。在任中、『ラブライブ! サンシャイン!!』とのタイアップ企画を複数打ち出し、さらにはアニメの声優陣をPR大使に任命することにより、「アニメの聖地」としての沼津市の方向性を確立させたのだ。その方向性は、現在に至るまでしっかり継承されている。 もしも大沼氏がはっきりと「アニメ×自治体」のコンセプトを打ち出していなかったら、今の沼津市の光景はなかったに違いない。 JR沼津駅近くにある商業施設「BiVi沼津」は『ラブライブ! サンシャイン!!』とそのコラボ作品『幻日のヨハネ』のポスターやポップスタンド、ラッピングで彩られている。休日は首都圏からここを訪れる人も多く、その中から「いっそ沼津市に住んでしまおう」と思案する人が出ている……という潮流があるそうだ。 58歳で急逝した自治体首長が、愛する地元に遺したかけがえのない功績である。
アニメが起死回生の切り札になる時代
アニメは地域活性化、そして大都市圏からの人口転出にもつなげることが可能だということを、沼津市は見事に証明した。 日本はこれからも一層の少子高齢化に突入するのは必至で、残念ながらその土地で受け継がれてきた文化や風習を担い手不足で維持できなる自治体は出てくるだろう。「何百年も開催されてきた祭りが今年限りで打ち切り」という話題が時たまニュースで放映されることもあるが、これも人口減少問題が要因の一つとして挙げられる。 自治体首長が具体的な解決策を提唱できなければ、地域そのものが消えてしまうかもしれない。そのような過酷な時代に、我々は生きているのだ。だが、それは見方を変えれば「あらゆるモノやコトが起死回生の切り札になる」ということでもある。 「アニメが人口減少問題を解決する」ということは、かつては一笑に付されていたアイディアだったはず。それが2024年の今では極めて有望な選択肢として見なされるようになったのだ。この「沼津モデル」は、21世紀中葉を迎えようとする日本にとっての大きなヒントなのかもしれない。 【文・写真】澤田真一(さわだ・まさかず) 経済メディア、ガジェットメディア、ゲームメディア等で記事を執筆。東南アジア諸国のビジネス、文化に関する情報を頻繁に配信。静岡県在住。 【協力】沼津市役所 政策企画課 移住定住推進室
オタク総研編集部