仲野太賀、『虎に翼』になくてはならない存在に 優三の複雑な心情を細部まで誠実に描写
NHK連続テレビ小説『虎に翼』第6週「女の一念、岩をも通す?」が放送された。高等試験司法科に挑んだ寅子(伊藤沙莉)は、2度目の挑戦で合格を勝ち取ることに。だがこの道のりには、苦しい別れや悔しい決断もあった。寅子が心を締め付けられる思いをする一方で、同じように厳しい決断を迫られた人物がいた。 【写真】試験に向けて猛勉強を積む優三(仲野太賀)と寅子(伊藤沙莉) それが優三(仲野太賀)である。これまでに何度も高等試験に落ちては悔しい思いをしてきた優三。寅子が明律大学女子部に入学して同じ法の道を目指すようになってからは、切磋琢磨しあう存在でもあった。だが、せっかく口述試験にまで進んだものの、優三は惜しくも不合格に。 書生として猪爪家に居候する優三は、第1週からユーモラスかつ愛嬌たっぷりのキャラクターで視聴者を楽しませてきた。序盤は、“なかなか試験に合格できない下宿の学生”というモチーフを背負い、試験の話になると血相を変えるようなコミカルな存在として描かれてきた。しかし寅子が弁護士を志すようになることで、優三が目指してきた道の険しさが改めて浮き彫りとなり、「不合格」という立場がより深刻で苦しいものであることが明るみとなる。 その中で、なぜ優三がこの試験に苦戦していたのかもわかった。優三は強い緊張により腹痛を起こしてしまうタイプだったのだ。そんな優三を思いやり、寅子は変顔で緊張を和ませる。これにより優三ははじめて体調不良を乗り越え、筆記試験では本来の実力を発揮できたという。だが、このエピソードは優三に厳しい現実を突きつけることに。それというのも、優三は実力を出しきれた自負がありながらも口述試験で落ちてしまったのだ。現実を受け入れ、高等試験への挑戦を諦めると話す優三の姿を目の当たりにする寅子にとっても、自身の合格を素直に喜び難いつらい出来事となった。
複雑な心情を細部まで誠実に描写した仲野太賀の“芝居力”
こうして優三は、人生においての一つの区切りを迎えることになる。本人が納得の上で結論を出したとはいえ、はたから見るとこの決断はあまりに口惜しい。なんとかまた試験に挑戦してはくれないかと思わずにはいられない。願わくは優三が寅子と共に弁護士として活躍する未来が見たかった。だがこの決断は、優三にとって悪いことばかりではないのだろう。長く暗いトンネルから脱したら、そこには新たな人生が待っている。優三の顔からは、そんな穏やかで晴々した気持ちさえ感じられた。 演じる仲野は、こうした複雑な心情を細部まで誠実に描写する。受験に緊張していつもと様子の違う優三、試験を終えた晴れやかな様子の優三、夢を諦める悔しさと同時に、寅子を祝う暖かい優三。そのどれもが確かに私たちが見てきた優三の姿であり、『虎に翼』になくてはならい存在なのだと確信できる。一人の“ヒューマンドラマ”を作品に溶け込ませる仲野の芝居の力には、つい魅了されてしまう。 長く居候していた優三だが、次週はついに猪爪家を出ることに。家族同然の存在だからこそ淋しさもあるが、それでも優三は新たな道を歩まなければならない。次週、優三を取り巻く環境はどう変化するのか、そして寅子や猪爪家との関係がどう変化するのかを見守りたいと思う。
Nana Numoto