AI時代の生き方の回答はSECIモデルにある
■これからが「野中理論」の時代 このように、SECIモデルの持つ示唆はすさまじい。なんといっても、繰り返しだが、知の創造プロセスをこれほど体系的に、鋭利に描き切った理論はない。イノベーションや創造性への示唆は圧倒的だ。先に述べたように、デザイン思考の存在理由の基盤にもなる。 そして、このSECIモデルで描かれることは、ほぼすべて人工知能ができないことだ※10。そもそも人工知能は暗黙知を持てないし、身体知も持てない。したがって、共感もできない。その場の文脈に合わせてナラティブに語れない。現場に行っても、事実を知覚できない。これからAIが人を代替すると言われる時代で、SECIモデルは、「なぜ生身の人間こそが、知の創造に必要なのか」を、圧倒的な説得力で説明する。AI時代の我々の生き方の回答はSECIモデルにある、とすら感じてしまう。 筆者は、この途方もない理論を野中教授が30年以上も前に生み出していることに、最高の敬意と畏怖と戦慄を覚える。いま筆者の周りで、イノベーター、デザインシンカー、AI系の起業家など様々な素晴らしい方々がいるが、彼らが未来に向けて話すことの大部分は、30年以上前にすでにSECIモデルで説明されている、とすら認識している。 1990年代にいわゆる「日本型経営」などの説明で、すでに世界的に貢献があったSECIモデルだが、実は近年の世界標準の経営学では、それほど他の研究者が実証分析の対象として取り上げることが多いわけではない。理論の特性的に、従来のデータを使った統計解析に馴染みにくいからかもしれない。しかし、これからは様々なセンサー技術やfMRIなどを使った神経科学の解析を使って、ケーススタディ以外の手法でも、SECIモデルの検証が可能なはずだ。それらが、この理論をさらに鋭利にしていくことも期待できる。 SECIモデルが圧倒的に本領を発揮するのは、実はこれからの時代なのである。筆者はそう確信する。 【動画で見る入山章栄の『世界標準の経営理論』】 組織の知識創造理論(SECIモデル) 日本企業に絶対必要な「イノベーション」3大理論 伊佐山元、高岡浩三両氏の名言に学ぶ、イノベーションの極意 ※8 「【野中郁次郎×入山章栄】経営学者が語る『知はいかにして作られるのか』」THE ACADEMIA、2019年8月21日。 ※9 ※8の記事のパラグラフを入れ替えた上、引用。 ※10 この点は『直観の経営』(KADOKAWA、2019年)で野中も言及している。
入山 章栄