だから兵庫県民は「斎藤元彦知事」を選んだ…どのマスコミも報じない「60日間の戦い」で起きていた変化
■支持の拡大は、単なる「判官びいき」ではない 斎藤氏が支持を拡大した土壌は、弱かったころから阪神タイガースを応援し続けている風土と通じるのではないか。 兵庫県民には阪神ファンが多い。その気質とされる「判官びいき」が根付いているから、斎藤氏の味方をした、と(だけ)言いたいわけではない。そうではなく、斎藤氏が、関西の、というよりも、大阪のマスメディアにいじめられているように兵庫県民に映ったから、これだけの盛り返しを見せた、と考えているのである。 メディア論で言われる「アンダードッグ効果」=負け犬になりそうな候補者を応援したくなる有権者心理、で片付けられるものではない。もっと構造的なものだろう。 私は先に「関西の新聞とテレビ番組」と書いたが、そのほとんどは大阪でつくられている。大阪府は、兵庫県と比べて、経済の規模は大きく上回り、文化の面では関西の中心である。他方で、その面積は1:4の開きがある。兵庫県は、その広さゆえに、本来なら、多様な文化や風土をきめ細かく報じられてしかるべきなのに、大阪目線のマスメディアは、それをすくい取れていない。 ■「在阪メディア」という巨大な権力 こうした、兵庫県の広さと多様性をカバーできないマスメディアは、斎藤氏批判で染め上げられ、それを目にする県民は、ますます斎藤氏への同情=「斎藤さん、かわいそう」を膨らませたのではないか。 大阪発のマスメディアから斎藤氏がいじめられているように映ったし、そればかりか、地元紙の神戸新聞や、地元テレビ局のサンテレビは、その尻馬に乗っているように見えた。 大阪という巨大な権力から、自分たちが3年前の知事選で支持した人物をないがしろにされている。この構造そのものに、県民は同情にとどまらず、怒りを抱いたのではないか。斎藤氏に向けられ(かけ)ていた怒りは、大阪目線のマスメディアや、対立候補へと矛先を変えたのである。 こうした民意の変化が今回の斎藤氏を完勝に導いたのだとしたら、「マスメディアの敗北」から立ち直る道は、ほとんど見えない。 ---------- 鈴木 洋仁(すずき・ひろひと) 神戸学院大学現代社会学部 准教授 1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。 ----------
神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁