イオンとナガセが語る、生成AIで開発した新サービス--マイクロソフト顧客事例
大学受験予備校「東進ハイスクール」などの教育事業を展開するナガセは「100%の生徒の学力を大幅に向上させる」というミッションのもと、AIをはじめとしたテクノロジーを活用した教育の技術革新を推進している。例えば、2019年にリリースした「志望校別単元ジャンル演習」では、200億問以上の解答データを分析し、生徒一人一人の学習状況を把握した上で、700以上の各志望大学に適した問題を提案。2024年の国公立大学の志望校合格率は71.8%に上った。 英語指導における英作文は、大学受験やビジネスに必須のスキルである一方、講評に時間がかかったり、講師個人の能力や判断に依存したりする課題から、学習の機会が十分に取れていなかったという。そこでナガセは日本マイクロソフトと共に、「GPT-4」などの大規模言語モデル(LLM)に東進ハイスクールと「東進衛星予備校」が保有する採点基準や問題/解答データなどを組み合わせ、「Azure OpenAI Service」を活用し、英作文自動添削サービス「英作文1000本ノック」を構築・提供開始した。 ナガセは2024年2~3月に先行無償提供を実施し、4月22日に通年の講座として正式開講した。6月21日時点で527人の申し込みがあり、累計演習回数は19万5000回を突破。同社は蓄積されたデータを基にサービスを継続的に改良している。受講した生徒からは「解説が詳しい」「自分の間違いをピンポイントでAIが指摘してくれ、理解しやすい」といった声が挙がっているという。 英作文1000本ノックのレベルは「基礎」「大学受験基礎/標準/難関/最難関」の5段階で、大学入試の過去問題が出題される。生成AIは正しい答案とA~Dの総合評価を提示するとともに、なぜその答案が正しいか/間違っているのかを講評する。別解も提示することで、生徒の学びを深化させる狙いだ。 筆者も英作文1000本ノックをデモアカウントで体験(図3)。普段の業務で英語を読む・聞くことは時々あるが、いざ文章を書こうとすると単語選びに悩むほか、スペルミスの多さも痛感した。A評価になるまで「再挑戦」のボタンのみが表示され、生徒が完全に理解しないと次に進まない設計となっている。英作文を入力して解答が表示されるまでの時間は長い印象だが、その間は英語のことわざが表示される。 同社はこのサービスで得られた知見をほかの教科や科目に展開させることを目指しており、「情報I」でのプログラミング学習の自動添削サービスの提供を予定している。情報Iは2025年から大学入学共通テストで必修化されるが、指導可能な講師が不足している、生徒が勉強方法に悩むなどの課題がある。 山野氏は「われわれは『最後に人を動かすのは人である』と思っている。人とAIがそれぞれ得意な部分を担い、個人に最適化された教育を提供したい」と語った。 説明会では、岡嵜氏がMicrosoftの生成AIサービスの動向を解説。Microsoftは「Microsoft Copilot」を中核に、AIを“使う”サービスとして「Copilot for Microsoft 365」、AIを“創る”サービスとしてAzure OpenAI Serviceのほか、「Microsoft Copilot Studio」「Azure AI Studio」などを展開している。 Microsoftは5月、Windows PCの新カテゴリー「Copilot+ PC」を発表し、日本では6月18日に発売した。同カテゴリーの製品は、毎秒40兆回のパフォーマンスを行うAIの推論処理に特化したNeural Processing unit(NPU)を搭載しており、メモリーは16GB(ギガバイト)以上、ストレージは256GB以上となっている。 加えて同社は5月、テキスト、画像、音声、動画など複数種類のデータを一度に処理できるマルチモーダルなLLM「GPT-4o」をAzure OpenAI Service上でも提供すると発表した。 生成AIのトレンドは、2023年までは利用用途に応じて最適なモデルを複数選択・利用する形だったが、2024年以降は音声、画像、動画にも対応した単一のマルチモーダルモデルを利用する形になると予想されるという。モデルサイズに関しては、膨大なパラメーター数のLLMが主流だったが、少ないパラメーター数や低い計算資源で動作可能なオンデバイスモデルが出てきており、岡嵜氏は「適材適所でモデルを組み合わせ、ユーザーにとってメリットのある形での搭載が進んでいくのではないか」と推察した。