オランダでイスラエルのサッカーファンに暴力、負傷者も
オランダの首都アムステルダムで7日夜、イスラエルのサッカーチームのファンが若者らに襲撃される事件があった。同国のウィレム=アレクサンダー国王は、ユダヤ教徒がオランダで安全だと感じられる必要があるとの声明を発表した。これに先立ち、マッカビのイスラエル人サポーターがパレスチナの旗を燃やすなど、双方の対立が数日にわたり続いていたという。 当局によると7日夜、欧州サッカー連盟(UEFA)欧州リーグのアヤックス・アムステルダム対マッカビ・テルアヴィヴの試合を観に同市を訪れていたマッカビのサポーターに対し、スクーターに乗った若者たちが「ひき逃げ」のような攻撃を繰り返し行った。 警察は、この襲撃で5人が病院で手当てを受け、複数の軽傷者が出たと発表した。また、少なくとも62人が逮捕された。 アムステルダムのフェムケ・ハルセマ市長によると、サポーターたちはヨハン・クライフ・アリーナからアムステルダム中心部まで歩いている際に、「攻撃され、罵倒され、花火を投げつけられた」という。 ソーシャルメディアで拡散されている動画では、男性が蹴られ、地面に倒された状態で殴られている様子が映っている。別の動画ではスクーターにひかれている人も見える。当事者の身元は確認できていない。 ほかに、一部の未検証動画では、人々が親パレスチナのスローガンを叫んでいるのが聞こえる。 被害者の一人、アディ・ルーベンさんは、友人らとホテルに戻る途中、10人以上の男たちの一団に遭遇し、地面に蹴り倒され、鼻を折られたと語った。 男たちはルーベンさんたちに、どこから来たのか尋ねたという。また、「男たちは『ユダヤ人、ユダヤ人、IDF、IDF』と叫んでいた」と話した。IDFはイスラエル国防軍の略称。 警察は当初、襲撃者の身元は不明だと発表したが、後にハルセマ市長が、襲撃者はスクーターに乗った若い男らだったと話した。その上で市長は、暴行に関与した人物たちの民族背景については詳細を明かさないよう注意し、それは警察の捜査の一部だと強調した。 オランダの反ユダヤ主義対策の全国コーディネーターは、事態が一線を越えたと批判。「このような暴力を振るえるなど、吐き気がすることだ」と述べた。 ハルセマ市長は8日の記者会見で、オランダのテロ対策調整室(NCTV)は、両クラブのサポーター間に敵意がないとして、試合そのものに対する具体的な脅威を警告しなかったと説明した。 この試合では、オランダのアヤックス・アムステルダムがマッカビ・テルアヴィヴに5-0の大差で勝利したが、トラブルは起きなかった。 一方、前日の6日夜には、マッカビのサポーターと、親パレスチナ派の抗議者らが関わるトラブルが発生し、逮捕者も出ていた。 アムステルダム警察のペーター・ホラ本部長は、「双方で事件が発生した」ことを認めた。6日にはマッカビのイスラエル人サポーターがタクシーを襲い、パレスチナの旗を外壁からはぎとって燃やしたという。 6日夜から翌朝にかけては、市内のダム広場でさらに双方の衝突があったものの、それ以降は大きいトラブルは発生しなかったと本部長は述べた。 また、イスラエル人サポーターたちが花火を打ち上げたという報告もあった。検証されていない動画には、エスカレーターを降りるファンたちが、反アラブのスローガンを唱えている様子が映っていた。 一部のマッカビ・サポーターはイスラエル国内でも人種差別的なトラブルを起こし、チームのパレスチナ人やアラブ人選手を罵倒するなど繰り返しているという。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対する抗議デモの参加者も、襲撃しているとされる。 パレスチナ外務省は、「反アラブのシュプレヒコール」と「パレスチナ国旗への攻撃」を非難し、オランダ政府に対してオランダ在住の「パレスチナ人とアラブ人を保護する」よう呼びかけた。 市内でパレスチナの旗が引き裂かれたことに地元住民が触発されたのかという質問に対しハルセマ市長は、市の中心部で起こったことは中東情勢に関する抗議とは何の関係もないと述べた。 「展開された行動には深く恥じ入る思いだ」とハルセマ市長は記者団に語った。 「テレグラム(メッセージアプリ)グループでは、人々がユダヤ人を追い詰めるために出かけると話していた。あまりにもひどく、言葉が見つからない」 テレグラムは声明で、「騒動に関与している可能性がある」グループチャットを閉鎖したと発表した。同社は「暴力を呼びかけるような行為」を容認しないとし、オランダ当局と協力すると述べた。 また、オランダ中央ユダヤ委員会(CJO)の委員長が「タクシーが集団で移動し、標的を追い詰めていた」と指摘した後、市長はタクシー運転手らが襲撃に関与していたという報告を認めている。 ■「水晶の夜」の日の直前 7日の暴力事件は、欧州各国やアメリカ、イスラエルの指導者たちから非難されている。 事件のあった11月7日は、1938年にナチスによるドイツ系ユダヤ人に対する迫害事件「水晶の夜(クリスタルナハト)」があった日の直前だったこともあり、特に衝撃をもって受け止められた。 第2次世界大戦中のホロコーストでは、オランダ在住のユダヤ人の約75%が殺害された。 ウィレム=アレクサンダー国王は、こうした歴史について言及し、「ユダヤ人はオランダで、いつでもどこでも安全を感じられるべきだ。我々は彼らを抱きしめ、決して離さない」と述べた。 オランダのディック・スホーフ首相はこの事件を受け、ハンガリーで開催された欧州連合(EU)首脳会議から早期帰国した。 スホーフ首相は、恐怖を感じながら事態の推移を見守っていたと述べ、「犯人は必ず突き止め、起訴する」と約束した。 アメリカジョー・バイデン米大統領は、この襲撃事件は「ユダヤ人が迫害されていた暗い歴史の瞬間を想起させる」と述べた。 イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は、マッカビのサポーターとイスラエル国民に対する「ポグロム(ユダヤ人の集団的破壊・迫害・虐殺)」について語った。 ヘルツォグ大統領はX(旧ツイッター)で、オランダ当局が「攻撃を受けているすべてのイスラエル人とユダヤ人を保護し、発見し、救出する」ために直ちに行動を起こすことを信頼していると述べた。 この事件を受け、欧州各地でのイスラエル人スポーツファンの安全確保にも疑問が呈されている。 イスラエルの国家安全保障会議は、「模倣犯による事件の危険性」を理由に、イタリアのボローニャで8日行なわれたバスケットボールの試合を避けるようファンに呼びかけていた。しかし、このユーロリーグの試合後に暴力事件が起きたという報告はなかった。 イタリアのメディアによると、ボローニャの警察署長は、試合会場へのイスラエル人選手たちの移動に特別護衛を割り当てた。試合は、ヴィルトゥス・ボローニャが84対77で勝利した。 (英語記事 We must not turn blind eye to antisemitism, says Dutch king after attacks on Israeli football fans/ 'They shouted Jewish, IDF': Israeli football fans describe attack in AmsterdaAmsterdam)
(c) BBC News