『佐々木亮介弾き語り興行“雷よ静かに轟け”』御徒町凧をゲストに迎えた第六夜をレポート
「今の曲、少年ジャンプのマンガ(『ふつうの軽音部』)に出てきたらしいんですよ。すごい昔の曲が俺の知らないところで誰かが好きでいてくれることがゾッとするというか……もちろんうれしいんですけど」「“理由なき反抗”を作ったのは2012年くらいなんですけど。震災の後くらいで、俺は言葉に飢えてました。欲しい言葉がどこにもないから、(自分のなかから)言葉が出てきました。これから歌う歌は、“ラップでもなく、トーキングブルースでもなく”って説明してたんだけど、もしかしたら朗読がいちばん合ってるのかも」 そんなエピソードを挟んで届けられたのは、「Summertime Blues Ⅱ」。“搾取する奴より搾取される奴が悪いと言われる2024年夏”と新たな歌詞が加えられ、より強く引き付けられる。 「凧さん(御徒町)に“いいね”と言われた曲です……“サラダ記念日”みたいになっちゃった(笑)」と「くたばれマイダーリン」(a flood of circle)を歌い、御徒町と交流がはじまった経緯を話しているところに御徒町本人が舞台に姿を現す(クビにタオルをかけ、手にはなぜかリュック、そして“緑茶割り”)。 「このイベントに誘われて、“2、3篇、詩を読む感じでいいかな?”と言ったら、“俺のなかでは対バンなんですよね”って言われて」「自分の足跡のような詩を読みますね」(御徒町)という話を挟み、彼の最初の詩集「人間ごっこ」から「梅雨入り」、そして、詩集「人に優しく」から「生きてることが辛いなら」を朗読。「生きてることが辛いなら」は森山直太朗の代表曲として知られるが、御徒町の声を通して聴くと、歌とは違った佇まいと感情が立ち上がる。 さらに「最近、よく北海道に出入りしていて。そこで勃殺戒洞(中村達也×中尾憲太郎)のライブを観ながら書いた詩です。佐々木亮介のイメージにも合うかなと思って」と「紫色の狼」、そして、詩集「いつも、ミシン」収録の「いつも」を読んだ。「いつも」は父親がいつも口にしていた“気をつけなさい”という言葉を巡る詩。父と子のあやふやで切ない愛情が滲む。 「今に立つ」と題された新作の詩が披露された後、再び佐々木が合流。ここからはふたりのコラボレーションが繰り広げられた。 まずは御徒町が佐々木をイメージして書いた歌詞を佐々木が曲にした「歌うたいのブルース」を朗読→弾き語りの順番で披露。「中央線の車両の間で 浮かんだ言葉をハミングする ギターケースが今日はないから 傍から見たらヘンな奴かも」というラインからはじまる詩、そして、アコギの響きとメロディを伴った歌。言葉と旋律、声がぶつかり合い、一つの表現になっていくプロセスを共有できる、きわめて貴重なパフォーミング・アートだ。 その後も、二―ル・ヤングの作詞・作曲による「ヘルプレス」(クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの名盤「デジャ・ヴ」収録)に御徒町が日本語の詩を付けて佐々木が歌ったり(タイトルは「平熱」。本気で素晴らしい出来だったので、できれば音源にしてほしい)、森山直太朗の名曲「どこもかしこも駐車場」をカバーしたりと、“これはもう2度と見られないな”という場面が続いた。もっとも印象的だったのは、この日のために紡がれたもうひとつの曲「君にI LOVE YOU」。シンプルで奥深い、それ以上でもそれ以下でもないピュアなラブソングだ。 最後は佐々木がひとりで「テンペスト」(a flood of circle)の歌詞を読み、弾き語りを披露……アンコールで再び登場し、「世界はきみのもの」を演奏したと思いきや、途中で歌詞が飛んでしまい、イベントはそのまま終了。佐々木は「8月12日、日比谷野音で!」([a flood of circleデビュー15周年記念公演 "LIVE AT 日比谷野外大音楽堂"])と笑顔で手を振り、舞台を下りた。言葉と歌の無限の可能性を実感できる、本当に素晴らしい公演だった。“雷よ静かに轟け”第七夜は10月27日(日)。ぜひ期待してほしい。 Text:森朋之 <公演情報> 佐々木亮介弾き語り興行“雷よ静かに轟け”第六夜 2024年6月22日(土) 浅草フランス座演芸場東洋館 【セットリスト】 ■佐々木亮介 01. Honey Moon Song(a flood of circle) 02. 浅草フランス座演芸場東洋館 Blues 03. 理由なき反抗(The Rebel Age)(a flood of circle) 04. Summertime Blues II(a flood of circle) 05. くたばれマイダーリン(a flood of circle) ■御徒町凧 詩集「人間ごっこ」より「梅雨入り」 詩集「人に優しく」より「生きてることが辛いなら」 「紫色の狼」 詩集「いつも、ミシン」より「いつも」 「今に立つ」 「ポエトリーカラス14」 「メッシが伝説になった次の日」 ■佐々木亮介&御徒町凧 06. 歌うたいのブルース 07. Helpless(Neil Young) 08. どこもかしこも駐車場(森山直太朗) 09. 君にI LOVE YOU ■佐々木亮介 10. テンペスト(a flood of circle) EN. 世界は君のもの(a flood of circle)