「同床異夢」の対話維持 米の融和姿勢、中国が冷や水 双方の溝浮き彫り〔深層探訪〕
シンガポールで2日に閉幕したアジア安全保障会議(通称シャングリラ会合)で、対面による米中の国防相会談が約1年半ぶりに実現し、途絶えていた国防当局の対話が本格的に再開した形となった。しかし、緊張緩和に前向きな米国に対し、中国はかたくなに自国の立場を主張。「同床異夢」の対話となった印象は拭えない。対立解消に向けた糸口を見いだすどころか、かえって双方の溝が浮き彫りとなった。 【写真】アジア安全保障会議で発言する中国の董軍国防相 ◇中国、宣伝戦に利用 「台湾を中国から分離させようとする者は、必ずや粉々に打ち砕かれ、自らの破滅を招く」「いずれ歴史の恥辱の柱にくぎ付けになる」。中国の董軍国防相は2日の演説で、台湾に関連して激しい言葉を並べた。 董氏が、西側要人が出席する国際会議に姿を見せたのは今回が初めてとみられる。董氏の演説内容に関し、出席者からは「特に台湾に関して激しいメッセージだった」「昨年の李尚福前国防相の演説よりもはるかに強硬な響きがあった」と驚きの声が上がった。演説後の質疑応答で、ウクライナ情勢などに関する質問が相次いで寄せられたが、董氏は全く答えず、台湾の頼清徳政権に対する非難を続け、司会者から「質問に答えてほしい」とたしなめられる場面もあった。 中国政府は会議の期間中、台湾問題についての独自の見解に関する記者向け説明会を連日開催した。また、オースティン米国防長官やフィリピンのマルコス大統領、オーストラリアのマールズ国防相の演説後、中国軍幹部が「質問」と称して自国の主張を長々と展開。今回の会議を宣伝戦の場として利用しようとする意図がうかがえた。 昨年の会議では、米中が非難の応酬を繰り広げ、国防相会談は見送られた。今年は会議開幕に先立ち、米中国防相会談が行われ、米側には融和的な雰囲気すら漂っていた。オースティン氏は1日の演説で「中国とのさらなる対話を楽しみにしている」と、対中批判のトーンを抑えた。 米側は、昨年11月にバイデン大統領と中国の習近平国家主席が首脳会談を行って以来、高まっている対話の機運を生かし、一層の緊張緩和につなげることを狙っていた。だが、5月に台湾で中国と距離を置く頼政権が発足したばかりで、習政権が台湾問題を巡り対立する米国に歩み寄ることはなかった。今回の中国の対応は、米側に冷や水を浴びせた格好だ。 ◇意思疎通不足を懸念 米中の対立は、会議に出席したインド太平洋諸国を困惑させている。シンガポールのウン・エンヘン国防相は「アジアでの物理的衝突を避けなければならない。アジアも世界も衝撃に耐えられない」と双方に自制を呼び掛けた。インドネシアのプラボウォ次期大統領も「米中の共存、協力、妥協のための全ての努力を推進すべきだ」と訴えた。 主催者の英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」は会議に合わせて公表した報告書で「アジア太平洋諸国は米中両国の意思疎通の不足を懸念している」と指摘した。会議では、今年11月の米大統領選でトランプ前大統領が返り咲きを果たした場合の両国関係の先行きを心配する声が上がった。(シンガポール時事)