U-23日本代表、ウクライナに快勝も浮かれず パリ五輪予選はまったく違う戦いに
【ほぼ2軍だったウクライナ】 マリ戦と違ったのは、荒木遼太郎(FC東京)の存在か。トップ下に近いインサイドハーフとして攻撃を牽引。ゴールに向かう迫力があって、数少ない「予感」のある選手と言える。 「荒木はパス精度が高いし、スペースで受けるうまさもあるから、自然とボールが集まる」(MF藤田) 荒木は、ライン間でプレーする技術やタイミングに長けている。フル代表の鎌田大地(ラツィオ)や伊藤涼太郎(シント・トロイデン)に追随する創造的能力の持ち主だろう。昨シーズンまで鹿島アントラーズで燻っていたのが謎だ。 もうひとり、その荒木と交代で入って2得点目を決めたMF田中聡(湘南ベルマーレ)も、パリに向けたキーマンになるかもしれない。ライン間にボールを入れるのも、自ら入るのもうまい。戦術的スキルが非常に高い MFだ。直近では浦和レッズ戦でアンカーとして出場、名だたる選手たちを翻弄するようにラインを破るパスを連発し、自らもフィニッシュに絡んでいた。 ふたりのように、楽しみな素材も出てきつつある。 ただし、ウクライナ戦の勝利で「日本はやっぱり強かった」という"祝祭"ムード"は危険である。 そもそも、ウクライナは2軍に等しい陣容だった。欧州のパリ五輪予選にあたる2023年のU-21欧州選手権、準決勝のスペイン戦(開催国フランスをのぞき欧州の五輪出場枠はこの大会の上位3カ国)の先発11人で、今回先発出場したのはDFオレクシー・シチのみ。フル代表がEURO2024出場をかけたプレーオフを戦っていることもあって、"発掘型"の編成で、主力は招集できなかったのである。 チャンピオンズリーグ(CL)にも出場していた国内最強のシャフタール・ドネツクのアルテム・ボンダレンコ、ヘオルヒー・スダコフ、ダニロ・シカンなどは日本戦に帯同していない。また、チェルシーのアタッカー、ミハイロ・ムドリク、オーストリアのLASKリンツに所属するセンターバック、マクシム・タロビエロフなど海外組も呼べなかった。 そしてポルトガルの名門ベンフィカの正GKで、CLでは久保建英のレアル・ソシエダとも対戦していたアナトリー・トルビンも、今回はメンバー外。フル代表のレギュラーの座を、レアル・マドリードの正GKアンドリー・ルニンと争う逸材である。ちなみにベンフィカの第3GKが、この日先発した小久保玲央ブライアンだ。
今後も、日本は地に足をつけた戦いをすべきだろう。 来月、カタールで開催されるU-23アジアカップで、日本はパリ五輪出場をかけて戦う。中国、UAE、韓国と同じグループ。ウクライナとは違い、「引いて守ってカウンター」の日本対策を講じてくるはずで、ウクライナ戦とはまったく違った試合展開になるはずだ。 日本はそこで勝機を見出せるか。ひとつの救いは、選手自身が「テストマッチはあくまでテスト」と割り切っている点だろう。 「モチベーションはどの試合も一緒。いつでも選ばれたら、その準備はできている」 荒木の泰然とした言葉は、決戦に向けて頼もしい響きがあった。
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki