横浜生まれ、ホークス育ち…故障で離脱の松本裕樹は仲間たちを信じてる
オスナが戦列を離れ、シーズン途中のストッパー転向
先発として期待された時期もあったが、リリーフに専任した2022年から才能が大きく開花。今季は50試合に登板した。シーズン前半はセットアッパーを務め、特に開幕から12戦連続無失点&ホールドを記録するチーム随一の安定感でスタートダッシュを支えて今季23ホールドを挙げた。 そして今年6月4日のドラゴンズ戦でプロ10年目にして初セーブを記録したのだが、その時はまさか“クローザー”を務めるなど想像もしていなかった。それから約1か月後の7月上旬、ロベルト・オスナが下半身コンディション不良を訴えて戦列を離れることに。するとすぐに小久保裕紀監督からストッパー転向を告げられた。 当初は「8回でも9回でも、変わらない気持ちで投げます」と話していたが、実際にマウンドに立つとギアの入り方が一段階違った。新守護神として最初の登板だった7月7日のイーグルス戦、2点リードの9回表でマウンドへ。先頭から2者連続で3球三振を奪い、最後は三ゴロでチームに勝利を運び今季2セーブ目を挙げた。直球はこの時点で自己最速タイの157キロをマーク。松本が「前の回にチームが逆転して自然と力も入りました。任される以上はゼロを積み重ねたい」と力を込めれば、小久保監督も「なかなかアドレナリンが出まくった良い投球でしたね」と笑顔を浮かべた。その後の試合では記録を更新する159キロも叩きだし、今季14セーブもマークした。
生まれ故郷の横浜からはじまる日本シリーズには間に合わなかったが…
しかし、懸命に腕を振り続けた中でアクシデントは起きてしまった。 9月4日のファイターズ戦の3点リードの9回、先頭打者に5球を投げて四球を与えたところで緊急降板。試合後、右肩に疲労性の痛みを抱えていたことが明らかになった。その日以前から疲労による張りが取れるのが遅くなっており、間隔を空けながら登板をしていた。当初は痛みという認識ではなく回復しきっていないという感覚だったようだが、倉野コーチは「ブルペンでもうちょっと早く判断できれば良かった」と悔いた。 また、試合は緊急でリリーフした大山凌と岩井俊介のルーキーコンビが打ち込まれて逆転負け。 「何だろう……。応援というか、祈るしかないところだったんで。苦しい場面で、大事な試合というのもみんなで共有してた中での9回。(大山は)多分投げたことない緊張感だったと思う。(少し涙声になって)もともと僕があそこでみんなを信頼して投げないっていう選択肢を取れば、ああいうことにもならずに行ったのかなっていう思いもありながら、なんだか本当に申し訳ないっていう気持ちでいっぱいでした」 松本は心の揺れが少ない男だ。だからリリーフという過酷な仕事の中でも最高のパフォーマンスを出し続けてきた。こんな日、報道陣にもしっかり応対した。ただ、ほんの一瞬、その声が上ずっていたのだった。 「やれることは全部やって、一日でも早く元のパフォーマンスを取り戻してチームの戦力になれるように」 そう語っていたが、生まれ故郷の横浜からはじまる日本シリーズには間に合わなかった。 今は仲間を信じるのみ。そして己の復活も信じるのみだ。松本は過去に、右肘の故障を乗り越えた。だからこそ今がある。 来年、日本一のチャンピオンフラッグを背にマウンドに立ち、背番号66は必ずまた輝いてくれるはずだ。 ◆ ◆ ◆ ※「文春野球コラム2024 日本シリーズ」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/74454 でHITボタンを押してください。
田尻 耕太郎