増えぬ法曹志願者、ロー失速…なぜ、司法制度改革を「失敗」と言わないのか?須網教授らの挑戦
法曹養成に特化したロースクールの創設や法曹人口の増加などを掲げ、1990年代から進められた司法制度改革。国民にとって司法を身近にしようと始まった大規模な取り組みは、明らかに“迷走”している。 このような現状を疑問視した研究者らが、2022年に『平成司法改革の研究ー理論なき改革はいかに挫折したのか』(岩波書店)を出版した。 編著者の須網隆夫教授(早稲田大学法学学術院大学院法務研究科)は、EU法の専門家で以前は弁護士だった。なぜ、このような本を出版したのか。話を聞いた。
●理論化は「研究者」としての責任
ロースクール修了者のうち約7~8割が新司法試験に合格できる教育、合格者数3000人を目指すことなど、司法制度改革審議会意見書では“壮大”なビジョンが描かれていた。意見書公表から20年経過したが、その理想は未だに現実化していない。 被疑者国選弁護制度や法テラスなど、個々にみれば改革が功を奏したものも少なくない。しかし、「法の支配の実現」という大きな理想を掲げた意見書を基準とすれば、改革は「失敗」といわざるを得ないーー。須網教授らが出版した著書は、このような視点から書かれている。 出版後、ある弁護士に「初めて『失敗』と述べているものを見た」と言われて衝撃を受けた。「これまで、改革が“成功だった”と語る研究者に出会ったことはない。なぜ、誰も『失敗』と言わないのか」と須網教授は疑問を呈する。 これまで、学問の枠組みの中で司法制度改革を理論化しようとする人はいなかった。「刑法学者は“刑法”のみ」「民法学者は“民法”のみ」というように、法学者がそれぞれの専門外の研究になかなか踏み込めない現状にも歯痒さを感じていた。
「審議会の会長を務めた憲法学者の佐藤幸治氏(京都大学名誉教授)は、制度改革の専門家ではありません。専門家以外の人がリードせざるを得なかったこと自体も問題ですが、そもそも“制度改革の専門家”はいるのでしょうか。制度改革とは、どういうものなのか。自分も分からずに改革に関わってきましたし、審議会の認識も不十分だったように思います」 須網教授の専門はEU法だ。しかし、改革とは“無関係”ではない。審議会委員をサポートした経験がある。ロースクールでは教鞭を取り、法曹養成のあり方を問う論文も出してきた。 なぜ、改革はうまくいかなかったのかーー。自問し続けていたこの問いに答えることが研究者としての責任を果たすことだと思った。 「誰かが理論化しなければ、同じような失敗が繰り返されてしまう」。そう思いながらも、ひとりでまとめるのは気が重かった。改革から20年経ち、筆を執る覚悟を決めた。他の研究者らの協力を得て、まとめ上げた。