【注目の映画3選】脳移植で蘇生した女性が、知性と快楽を求める冒険譚『哀れなるものたち』ほか
今月のおすすめ映画①『哀れなるものたち』 脳移植で蘇生した女性が、知性と快楽を求める冒険譚
身体は大人なのに幼児のようにふるまう女性ベラ、天才外科医であるゴッドウィン、彼の教え子マックスの3人がいる、あるお屋敷。モノクロームの世界によるこのプロローグでは、知性のない存在に女が割り振られ、理知的な男たちに囲まれるという既存の性差別的な構図が立ち上がっている。しかし、これこそ『哀れなるものたち』における最初の巧妙なギミックとなっているのだ。この世界に「生まれついた」ばかりのベラは、やがて軟禁状態にさせられていた家から外へ飛び出したいと願うようになる。そこに現れた放蕩者ダンカンに誘惑されて船の旅に出たベラは、知らなかった真実に触れて、次第に変化を迎えてゆく……。 【写真】女性のセクシュアリティについての哲学を描く『哀れなるものたち』ほか、今月のおすすめ映画3選 配偶者を獲得しなければ動物へと姿を変えられてしまう『ロブスター』(2015年)で、「普通」とされている恋愛や性愛を脱臼させてみせたヨルゴス・ランティモス監督は、本作でまたもその本質を暴き出す。ベラはこの社会で身につけさせられるはずの性に対する羞恥心や節度は、一切持ち合わせていない。自分で自分の身体を悦ばせ、男性以外の相手とも関係をもち、男性主体の性の在り方を打ち壊していくベラの冒険を描く本作には、女性のセクシュアリティについての哲学がある。 実はベラは、かつて家父長的な環境下でお腹の子どもとともに自らこの世を去っていたのだった。ゴッドウィンが胎児の脳をベラに移植し、生き返らせていたのだ。何度虐げられようと、一から生き直す──。人生を奪われたベラは創造主なる父から“生”を与えられ、そして知性と自由と快楽を手に入れ、本気でこの不完全な世界を変革しようと夢見る。『哀れなるものたち』は、未だ体験したことのない壮大な冒険へと、あなたを連れていってくれるに違いない。
『哀れなるものたち』
監督/ヨルゴス・ランティモス 出演/エマ・ストーン、マーク・ラファロほか 2023年 イギリス映画 2時間21分1/26より全国の劇場にて公開 ※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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