『西園寺さんは家事をしない』松本若菜と松村北斗が “結婚して家族に” 幸せテンプレの結末だったら、いささかガッカリの不安感
今期ドラマのダークホースで、回を追うごとに評価が高まっている感もあるが、最終話で描かれる結末への期待と不安も入り混じってきている。 8月13日(火)に第6話が放送された松本若菜主演の火曜ドラマ『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)。 西園寺一妃(松本)は、アプリ制作会社のプロダクトマネージャーとしてバリバリ働く38歳・独身。明るくコミュ力が高いタイプで、「やりたいことをやる、やりたくないことはやらない」という主義で、家事は絶対しないと決めている。 すでにマイホームを購入し、悠々自適な “家事ゼロ” おひとりさまライフを満喫していた彼女の前に、転職してきたアメリカ帰りの天才エンジニア・楠見俊直(SixTONES・松村北斗)が現れる。無口で無愛想、ロジカル思考で協調性もない楠見だったが、実は1年前に妻を亡くし、4歳になる娘・ルカと暮らすシングルファーザーだった。 ひょんなことから西園寺の家で楠見とルカも暮らすことになり、「偽家族」として共同生活を送ることになり――というラブコメディだ。 ■恋心に右往左往する姿がまったく痛々しくない 本作が放送されている火曜ドラマは、2016年に『逃げるは恥だが役に立つ』を大ヒットさせている恋愛ドラマ枠。 この枠では、恋人同士ではない男女が奇妙な共同生活を始め、次第に惹かれていき愛し合うようになるという物語の類型が存在する。前述の『逃げるは恥だが役に立つ』や2021年放送の『婚姻届に判を捺しただけですが』、そして『西園寺さんは家事をしない』もこの類型に該当している。 つまり『西園寺さんは家事をしない』は、言わば火曜ドラマにおける王道路線で、率直に言うなら基本設定にはマンネリ感がある。それでも評価を高めているのは、西園寺と楠見のキャラクターがとても魅力的だからだろう。 西園寺は芽生え始めた楠見への恋心に右往左往するのだが、アラフォーながらまったく痛々しさはなく、むしろその姿がとてもキュートなのだ。 演じている松本若菜が番宣でバラエティ番組や情報番組に出演している姿を何度か観たが、松本も西園寺と同じく気さくで明るい性格のように見受けられた。主人公と俳優のキャラがシンクロしている部分がけっこうあるので、無理なく自然に演じられており、西園寺の愛らしさも爆増しているのかもしれない。 エリートイケメンの楠見は、一見するとクセが強くて取っつきにくい性格に思えるが、実はきちんと素直に謝ることができるタイプで好感が持てる。 ラブコメ作品におけるこの手のキャラは、プライドが高く素直に謝罪できない幼稚なタイプが多いのだが、楠見はその定番パターンを打破。“ちゃんと謝罪できるエリートイケメン” という新鮮なアプローチを見せており、非常に魅力的である。 西園寺と楠見だけでなく、純真無垢なルカのかわいさの破壊力はハンパないし、周囲には愛すべきおもしろキャラが多いし、そんな登場人物たちの掛け合いで生み出される世界観が、とてもやさしく心地いい。 ■2人が結婚したら、ひねりがなさすぎる そんな魅力の詰まった『西園寺さんは家事をしない』だが、個人的にはどういうエンディングを迎えるかという点に、一抹の不安がよぎっている。 西園寺も楠見も芽生えている恋心を打ち消そうとしたり、まだ自覚できてないように見えたりするが、恋愛的に惹かれ合っているシーンが随所に盛り込まれている。 となると、2人が両想いだと気づいて恋人になり、結婚してルカと3人で本物の家族になるというハッピーエンドは、当然、最有力の結末となってくるだろう。西園寺と楠見はとてもお似合いなので、筆者の心情としても2人が結婚するエンディングを観たい気持ちはある。 しかし、である。 公式サイトには、《風変わりな同居生活を通して「幸せって何? 家族って何?」を考えるハートフルラブコメディ!》と謳われていることから、「幸せ」や「家族」の在り方を示していくことが本作のテーマとなっている。 そのテーマを掲げておいて、“結婚して家族になって幸せ” という旧態依然とした価値観の結末になるとしたら、今までのラブコメのテンプレすぎて、あまりにひねりがなさすぎやしないか。 いまは価値観も多様性の時代である。 もちろん従来どおりの “結婚して家族になって幸せ” という価値観があっていいのだが、わざわざ「幸せって何? 家族って何?」と問うならば、べつの新しい価値観の「幸せ」や「家族」の在り方を示してほしい気持ちも強い。 つまり、2人が結婚するという従来どおりの価値観のハッピーエンドを望む気持ちもあるし、一方でそういう固定観念をブッ壊して斬新な価値観を提示してほしいという気持ちもあって、視聴しているこちらもなかなか複雑な心中なのだ。 ――今夜放送されるのは第7話。そろそろ最終話に向けてストーリーが動いていくだろう。西園寺と楠見がどういう関係で着地するのか、見届けていきたい。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中
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