「今日に限っては兄の尚弥を超えたと言っていいですかね?」なぜ井上拓真は“最強挑戦者”に9回KO勝利できたのか…覚醒の理由
プロボクシングのトリプル世界戦が24日、東京墨田区の両国国技館で行われ、メインのWBA世界バンタム級タイトルマッチでは王者の井上拓真(28、大橋)が元IBF世界スーパーフライ級王者である最強挑戦者のジェルウィン・アンカハス(32、フィリピン)を9ラウンド44秒に右のボディショットで沈めるKO勝利で初防衛に成功した。壮絶な打撃戦に打ち勝った拓真は「退屈な試合ではなく変わった自分を見せたかった」と号泣。兄のスーパーバンタム級4団体統一王者の尚弥(30、大橋)も「感動した。強気、強気だった」と絶賛した。
最強の“遺伝子”がついに覚醒した。 9ラウンドのインターバル。真吾トレーナーがアドバイスを送る。 「ナイス、いい試合だよ、ただくっついたときにボディワークをもっと使おう」 接近戦でも上体を動かしながらアンカハスの被弾を避け、攻撃に転じようとの指示だ。拓真は、その密着戦で、うまく上体をずらしながら、右のボディショットを正面からアンカハスのみぞおちに一発、そして2発とめりこませた。 うめき声と共にIBF世界スーパーフライ級王座を9度防衛した名王者が両手、両膝をつく。ダウン…苦悶の表情を浮かべたアンカハスは、懸命に立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かず、逆に尻もちをついてしまった。 感動の10カウント。拓真はコーナーによじのぼって雄叫びをあげた。 そして真吾トレーナー、大橋会長、兄の尚弥と歓喜の抱擁。その目からは涙があふれた。 「過去一の強敵と思っていた。当日まで不安でいっぱい。勝てるか、勝てないか、わからない極限の状態で練習をしていた。ここまでは判定が続き、いい見せ場もなく、お客さんを退屈させた。変わったところを見せたかった。こういう結果で終わって最高。強豪相手に接近戦で打ち勝てたことは今後の自信につながった。これからは変わった井上拓真を見せていきたい」 2019年11月にノルディーヌ・ウバーリ(フランス)との統一戦に敗れた後、国内の有力選手や地域王者との厳しいマッチメイクが組まれた影響もあって5戦中4戦が判定決着。WBAのベルトを獲得した昨年4月の王座決定戦のリボリオ・ソリス(パナマ)戦も判定勝利だった。対照的に兄の尚弥は、連続KOを続けて、すべてインパクトのある試合内容で、2階級4団体統一をやってのけた。 「ソリス戦もポイントアウトで見ているお客さんが退屈してしまう試合内容だった。見ているお客さんが、おっと思うような試合をしていきたい。偉大な兄がいる。その兄と比べられる以上は、自分も盛り上げる試合をしたい」 その思いがずっとあった。 数年前に「兄を越えることができるのか?」と質問したことがある。 拓真はこう答えた。 「超えたという日は来ないんじゃないですかね。尚は兄であり、友達であり、ボクサーとしての目標。尚は勝つだけではなく倒してきている。試合に中身があるんです。勝つだけでは尚を越えられない。今後、試合の中身でどれだけ近づけるか」
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