映画『ディア・ファミリー』で大泉洋が伝えたかったこと
人工心臓やカテーテルを開発する過程で家族は幾度となく「壁」にぶつかる。だが、それはモノづくりの難しさだけに限らない。 「映画でも大学病院の教授や研究医など、医療界の人たちとのやり取りがうまくいかないシーンが出てきます。私が演じる宣政がどれだけ良いものを作ったとしても、『実績がない』と突っぱねられてしまったり。医療や大学病院の世界には特有の〝しがらみ〟があり、医工連携の難しさというのは、昔も今も少なからずあるんだろうなと思いながら演じていました」
〝昭和の男〟を演じ切る
それでも「諦めない」という強い思いが、多くの人の命を救うことにつながっていく。撮影にあたって、大泉さんは実際、筒井宣政さん本人に会い、その〝強さ〟を肌で感じたという。 「生命力が溢れていましたね。この人なら成し遂げると思いました。筒井さんが何度もおっしゃっていたのが『為せば成る』という言葉。その言葉にどこか自分の父に通じるものを感じました。『考える前に動く』というか。そういう世代なんだと思いました」 映画では、東海道新幹線の「0系」車両の喫煙車で名古屋から東京へ移動するシーンや、ひたすら書籍を読みあさって調べものをするシーンが映し出されている。まさに「昭和」の時代真っただ中といった光景だ。73年生まれの大泉さんは自分が生まれた頃の〝昭和の男〟を演じきった。 「時代は違いますが、家族を助けたいという感情は実に理解できました。そういう意味で気持ちの面では流れに全く無理のない役柄でしたが、もし自分が同じ立場になったとき、僕は人工心臓を作るという決断はできないだろうなと思いました」 筒井さんは元々モノづくりに精通していた人だ。だからこそ自分で作るしかないと思い至ったのかもしれない。
「当時の人たちには今のような情報も選択肢もありません。だから突き進むしかなかった。ただ、現代を生きる僕たちには、筒井さんや僕の父親が生きた昭和の時代と違って、選択肢がたくさんあります。でも逆に選択肢だらけの中で生きているからこそ、その選択で悩んでしまいがちです」 現代では自分で生き方を選んでいかなければいけない。そんな時代にこの物語が伝えてくれるのは、「誰かのために自分には何ができるのか」というメッセージだと大泉さんは言う。 「現代を生きる僕らは何をしたときに満足感を得られるんだろうと考えたら、『誰かに何かをつなげる』ことができたときなんじゃないかと思ったんです。自分のことだけ考えて生きていたら、きっとどこかで虚しさが襲うでしょう。人間である僕たちには、種族を繁栄し、未来につなげていくという究極の目的があります。それは、決して子孫を残すということだけに限りませんが、本能として、何かをつなげるために僕らは生まれたんじゃないかなって。この映画を見た方々が感じることはさまざまあると思いますが、僕は演じていて、そう感じました」