『パリピ孔明』Babymixと八尾香澄Pが明かす舞台裏 “一人一衣装”をコンセプトにした理由
個性豊かなキャラクターたち、豪華アーティストたちによるパフォーマンスが話題を呼んでいるドラマ『パリピ孔明』(フジテレビ系)。『ヤングマガジン』(講談社)にて連載中で、単行本の累計発行部数は160万部を突破する人気コミックを実写ドラマ化した本作は、天才軍師・諸葛孔明(向井理)が現代の渋谷に転生し、歌手を目指すアマチュアシンガー・月見英子(上白石萌歌)を成功に導いていく音楽青春コメディだ。 【写真】 毛皮にショートパンツ姿の関口メンディー(前園ケイジ役) 登場人物たちの個性あふれるファッションも大きな見どころとなっている本作。衣装を手がけるスタイリストのBabymixとプロデューサーの八尾香澄にインタビューを行い、衣装のこだわりや撮影の裏話などを語ってもらった。 “一人一衣装、変化していくのがヒロインだけ”をコンセプトに ――まず、今回の衣装をどのような考えで作ったのかを聞かせてください。 八尾香澄(以下、八尾):Babyさんに原作や脚本を読んでもらったところ、一人一衣装にしたいという話がありました。例えばアベンジャーズにはそれぞれのキャラクターの、スパイダーマンにはスパイダーマンの衣装がある。日替わり関係なく「このキャラクターといえばこれ」という一着を決めて、ずっと着せるというやり方がこの作品には合っているんじゃないかと。それは孔明に限らず、赤兎馬カンフー(ELLY)やKABE太人(宮世琉弥)も同様です。ミア西表(菅原小春)や前園ケイジ(関口メンディー)などはステージと部屋着などシチュエーションによって多少パターンがあったりもしますが、基本的には変わらないことをコンセプトにしています。それぞれキャラが立っている一着がある中で、英子の衣装だけを毎日変えていく。“変化していくのがヒロインだけ”というコンセプトはBabyさんのアイデアですね。面白いアイデアだと思って乗っかりました。 ――向井理さん演じる孔明の衣装はどのように制作したんでしょうか? Babymix:原作ファンの方も多いだろうし、諸葛孔明を好きな人もたくさんいると思ったので、まずは孔明をしっかり作ろうと資料探しから始めました。けれどなかなか答えが見つからなかったんです。その中で、いろんな方の知恵を拝借しながら試作を進めました。特に中国系の衣装をどうするかは、ずっと悩んでいましたね。 八尾:半年前くらいから、中国衣装のリサーチを進めてもらいました。日本の時代劇だと、いろんな会社がたくさんの着物を持っていますが、中国の衣装を持っている会社があまりなくて。 ――そうだったんですね。中でも孔明の衣装は原作よりゴージャスな色遣いになっている印象を受けました。 Babymix:僕は常々、一番身近なアートはファッションだと思っているんですよ。なので、この作品がアートだったらいいなと考えました。突き詰めると、人そのものがアートなのかなと。原作もいろんなキャラクターがアーティスティックに登場する漫画だったので、リアリティを重視するというよりかは、みんながアートを着ているという印象で作れたらいいなと思いました。 ――アーティスト役の方々もみんな個性的なファッションをしていますが、共通したコンセプトはあるのでしょうか? Babymix:英子とKABE太人以外は、視聴者に「濃いキャラクターが出てきたな」と思ってもらえればいいなという気持ちで作っています。今後もいろいろなアーティストの関係者が登場しますが、単独でいてもその人物が誰のチームなのかが分かるように、色で分けることを意識しています。 八尾:第2話、第3話には嶋田久作さんとアオイヤマダさんが演じる黄緑色の集団が出てきましたし、第5話、第6話にはAZALEAのキーカラー、ピンクの集団が出てきます。 Babymix:色に注目して観てもらうと、そのキャラがどこのグループに属しているのかがわかるような仕組みになっています。三国志に劉備や関羽や張飛がいるように、ドラマの中でもみんながチームで動いていて、1人で出てくるということはありません。なので、この作品の中の“人の縁”や“コミュニティ”を衣装で作れたらいいなと思いました。 今の流行が反映されているところにドラマの良さがある ――チームカラーやキャラクターの個性を活かしたスタイリングでありながら、今のトレンドでもあるY2Kファッションが取り入れられていますよね。ほかに今のトレンドを意識した部分があれば教えてください。 Babymix:2023年の秋冬はいろんなブランドからヒョウ柄が出ています。小林(森山未來)は全身ヒョウ柄の衣装ですが、スタイリングの時にそこは全く考えていませんでした。ファッションの仕事をしていると、そういうふうに自然とシンクロしてくるものがあるんです。Netflixシリーズ『First Love 初恋』のときもありました。自分がいいと思うことをそのままやると、どうしても昭和っぽくなってしまうんですよね。そこは、今シーズンのブランドも使いながら古着も使うというように、ミックスしていかないと今っぽさがなくなってしまう。だから、意識して良いブランドをさりげなく使いつつ、古着もたくさん使って、着物のようなものも取り入れています。これが『パリピ孔明』における「カオス」という部分はあるかもしれません。 ――おっしゃる通り、ハイブランドもミックスされているのが印象的でした。カオスな雰囲気を出すことが狙いだったんですね。 Babymix:そうですね。やっぱりドラマの良さって、今の流行が反映されているところにあると思うんです。ポップな要素をちゃんと入れていくことが、ドラマの良さに繋がっていく。映画はもっとコンサバティブに作られているので、ドラマほどの流行がないんですよ。そういう意味で、自分にはドラマの方が合っているのかなと思います。 ――改めて、ドラマのスタイリングで意識していることがあれば教えてください Babymix:スタイリストそれぞれにいろんな考え方があると思いますが、僕としては、作品力は役者さん、ヘアメイク、衣装、美術などひっくるめて、芸術点を獲りに行く“チーム戦”だと思っていて。テレビというものは、そのドラマを知っている視聴者だけが観るわけでなく、何気に点けたら映っていたということもあるわけです。なので、“画力”がないと、ずっと観続けてストーリーを楽しんでもらえるところまで到達しません。画にそれなりの力がないと、観続けることは難しいんですよね。そこが、わざわざ映画館に出向いて作品を観る映画との違いなんです。そういう意味では、テレビの方がなおさら画に力が必要だと思っています。 ――話を聞いている限り、いろんな苦労があったことが想像できます。そんなときにBabymixさんはどう乗り越えたのでしょうか? Babymix:とにかく今回はチームが良かった。時間的なこと、労力的なこと、それから予算的なこと、暑さなど環境的なこと……それに過酷な撮影スケジュールもありました。いろいろあったけれど、それを乗り越えられたのはやっぱりチームが良かったからですね。すごく綺麗な言い方かもしれないけれど、それは間違いないですね。 ――エキストラもBabymixさん自身がスタイリングを担当されたそうですね。 八尾:主要キャストの方たちは衣装合わせをしているので、基本的には事前に決めたものをきちんと着ていただく作業になります。でもエキストラの方はその日その場に偶然集まった方たちなので、体型も髪型も事前の想定は出来ない。その人たちをどう見せたらいいかを、衣装だけでなくメイクも含めてBabyさんが統括していました。日常を描いたドラマの場合、エキストラの方に事前にイメージを伝えて私服で来ていただいて、そのまま撮影ということも多いです。でも今回は“パリピ”なので、クラブやフェスのように派手にしたり華やかに作り込まないといけないシーンがありました。一番大変だったのが、第1話のハロウィンのシーンです。撮影自体は夜の時間でしたが、朝から衣装部・メイク部総力戦でエキストラを作り込んで、完成した人たちをマイクロバスで撮影場所まで連れていきました。 Babymix:撮影は2日間ありましたが、エキストラの中にはハロウィンのマスクを被らないといけない人たちもいたんです。せっかく来ていただいたのに顔が隠れてしまうので、2日目も来れる方に1日目はマスクを被っていただくよう頼んだりもしました。エキストラの方たちには本当に頭が上がりません。 ――この先の放送では、衣装のどこに注目してドラマを観てほしいですか? Babymix:スタイリングのどこがかわいいかよりも、チームを意識した衣装になっているところに注目してほしいですね。“あの人とこの人がつながっている”というように、人の温もりが盛り込まれているところは、自分としてもこだわった部分です。 八尾:Babyさんがコンセプトの一つとして話していたのは、「小学生の子どもが観てもわかるキャラクターを作りたい」ということ。この人は敵なのか味方なのかとか、この人はどのチームの人なのかということが視覚の情報でわかりやすくなったら、子どももより楽しめるんじゃないかと。「この人もピンクの服だから、こっちのチームの人なんだ」というように、「小学生にもわかる衣装を目指す」と言っていました。 Babymix:そうなんです。テレビを観ている子どもたちが絵で描けるような衣装にしたかったんですよね。そのコンセプトにみんなが乗っかってくれています。前園ケイジ役の関口メンディーさんにも、「毛皮を着てショートパンツを履いていたら、子どもたちがそういうふうに絵を描いてくれるんじゃないかと思ってこの衣装にした」と伝えました。
Nana Numoto