真藤舞衣子(料理家)「厚沢部・ジェットファーム」──ミシュランシェフたちが信頼を寄せるアスパラガス。特集:車とともに旅に出よう。
旅の季節がやってきた。西へ東へ、国境さえも越えて、車はどこまでも私たちを運んでくれる。かつて、若きジェントルマンは未知なる世界へ、見知らぬものと出会い、自身を高めるために旅に出た。車を相棒に、グランドツーリングへと出かけよう。料理家の真藤舞衣子とグルメの注目スポット、函館に向かった。 【写真を見る】ほかのアスパラガスとは訳が違う!
「アスパラガスってそもそも何だと思います?」とオーナーである長谷川博紀からいきなりのクイズ。「なんだろ......芽? あ、茎でしょ!」と真藤も素早く切り返す。食のプロ同士の話はテンポが速いけれど、正確を期すなら、アスパラガスとはオランダキジカクシという植物のシュート(若茎)部分。なるほど、畑には雉の姿くらい簡単に隠せるほど柔らかな葉がモシャモシャと茂っている。 長谷川は函館出身だが、25歳で一念発起して農家を志した脱サラ組。当初は「北海道だからジャ ガイモかな」と漠然と考えていたが、JAからあっせんされたのはなんとアスパラガス畑。「やるならばがむしゃらに」がモットーの長谷川はアスパラガスを調べあげ、化学肥料や農薬の使用を取りやめ、土の改良に取り組んだ。アスパラガスの品質は水に左右されることも多いため、厚沢部町の湧水である水道水を使うこだわり。その結果、生まれたアスパラガスは他とは一線を画す味わいだとして多くのミシュランの星付きレストランで使用され、シェフたちから絶大な信頼を得ている。長谷川のアスパラガスだから、人呼んで“ハセパラ”だ。 さて、このハセパラ。この日は収穫したものをそのまま網にのせ、炭焼きに。少し焦げ目がついてきたかな?というところで塩を振り、頭からガブリとやった。 「……」(一同沈黙) 本当に美味しいものを食べたときは言葉が出てこない。次にはあらかじめ塩とオイルを振り、汗をかいたアスパラガスを、日頃から愛用するバーミキュラの鍋でソテーする。 「!!!」(一同驚愕) 炭焼きにしたものより、甘みが引き立つから不思議だ。アスパラガスって本来こんな味だったのか。 さて後日、ハセパラを取り寄せた真藤は、昆布と塩を加えて炊いた土鍋ごはんに生のアスパラガスをスライスして大量に加え、蒸らしてから混ぜごはんにしていた。ごはんの熱でしんなりする半生でも美味しい。これもハセパラだからこそできるご馳走だろう。 ■ジェットファーム 住:北海道檜山郡厚沢部町館町458 ※アスパラガスの注文はHPから。次回収穫は5月以降。今から楽しみだ。 https://jetfarm.jp/ ■真藤舞衣子(しんどうまいこ) 料理家。会社勤務を経て1年間京都の禅寺で生活、パリのリッツ・エスコフィエでディプロマ取得。主に発酵料理を得意とし、和洋中、スウィーツ、パンなどの幅広いレシピで人気。主著に『和えもの』『はじめてのサワードゥ ブレッド』『発酵美人になりませう。』など。
文・秋山都 写真・山田晃 イラスト・尾黒ケンジ 編集・岩田桂視(GQ)