高畑充希と岡田将生の演技に驚いた…!監督・脚本の今泉力哉・かおりが『1122 いいふうふ』の現場で感じたこと
「成長」は描きたくない
――やったことが実らなかったからといって、無駄ではないと。 力哉:それで言うと、僕は「成長する」みたいなことをあまり作品でやりたくないんですよ。安易な成長、安易な解決、そういうわかりやすく「ひとつ何かを得ました!」みたいなのが嫌で。変化は、別に成長じゃなくていい。結果より過程。「たくさん悩み、そのことにどれだけ真剣に向かい合ったか」「解決のためにどれだけ試行錯誤したか」ということに意味がある。いちことおとやんは一生懸命やった。それで十分です。 以前に監督した『愛がなんだ』(19)が、あれだけたくさんの人に受け入れられたのも、「成長」を描いていなかったからだと思うんです。主人公のテルコは「この人をやめて次に進もう」という結論には至らなかった。 確かに、主人公が成長して物語が終わると、観た人はその瞬間だけ「私もあの人みたいに頑張ろう」となって、ポジティブな気持ちになれます。明日から頑張ろうって。だけど何日か、いつもの日常を過ごすと、ふと気づくんです。あれ、自分の恋愛や仕事は全然うまくいかないじゃないかって。そうすると、「あの主人公と私は別なんだ。彼女はやっぱり特別なんだ」って感じてしまう。極端な話、彼女は物語の中の、ただの作り物だったんだ、あれはフィクションだからうまくいったんだ、って思われたりもする。それは作り手としてはなんだか悔しいじゃないですか。もっと観客の気持ちに寄り添いたい。 テルコが成長せずに終わったからこそ、観た人が「こんなにうまくいかない日々を生きている人でも、主人公たりえるんだ」と思える。現状の自分を肯定できる。僕は公開当時、お客さんの反応でそれを学びました。それからはずっと、「わかりやすい成長なんかさせてたまるか」って意識で作品を作っています(笑)。
稲田 豊史(ライター、コラムニスト、編集者)